「言葉のちから」

 

  明けましておめでとうございます。
旧年中はお世話になりました。
本年も宜しくお願い申しあげます。
2023年 元旦 奥山 礼紫

 

「言葉のちから」

      奥山 礼紫

 鑑定にいつも来てくれる方や日常生活で出会う人に、久しぶりに会う時に私は「元気だった?」というより「元気そうね」という言葉をかけるようにしている。
ほんの少しの言葉の違いであるが、この違いはとても大きいと常日頃感じているのである。
元気そうに見えない人も、よく見るとどこかに元気になりたいという気持ちが垣間見えるので、これは全くの嘘ではないのである。
そしてほとんどの人が「元気そうね」と声をかけると、「そう?元気に見える?」とみるみる顔つきが明るく変わってくる。
 暗い沈んだ顔をして鑑定に来られた人も「ずっと悩みがあって元気じゃなかったけど、聞いて下さい。実は・・」と堰を切ったように、心に溜めていた悩みを話し始めるのである。
そして心を整理しすっきりした後、足取りも軽く帰っていく姿を見て、私まで嬉しくなるのである。
ほんの少しの言葉の違いではあるけれど、人の心には違って響いているのをいつも実感している。
「元気ですか?」と声をかけると、人はすぐに作ったような笑顔を返してくれる。または苦笑しながら自分の内面に目を向け始め、暗い神妙な面持ちになる人もいる。
「元気ですか?」という相手に問いかけるような声かけは、相手の状況を気遣っているようでありながら、相手に「元気でいて。元気であれ」と押し付けているように私は感じるのである。
「元気そうね」には「元気そうに見えますよ。だからもう心配しなくて大丈夫。」と励ましの言葉になっているのではないかと思っている。実際にこの声掛けの後、表情がいきいきと明るくなっていき、何を話しても大丈夫と自分から言葉を発するようになるのである。
言葉には人を癒す力があると思う。
人の心を温かくするのも、冷たく寂しくするのも言葉の力が大きく働いていると思う。
だからどんな小さなことでも言葉を大切にして人に声かけをしていきたいと常日頃考えている。

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奧山 礼紫(おくやまれいし)
東京都出身 新宿区在住 2月7日生。
12歳から4年間英国ロンドン在住。帰国後、大学在学中に米N,Y州コロンビア大学Political Science短期留学、立教大学大学院史学研究科博士前期課程修了。広告代理店、BS放送局勤務後、フリーライターとして、日本航空機内誌「アゴラ」にて海外で活躍する日本人アスリートのインタビュー記事を担当する。花見正樹師に師事して九星気学、四柱推命を学び、現在、新大久保「幸運占館」で対面鑑定、yahoo占いコーナー、各種占いコラムを掲載中。また志木カルチャーセンター、新所沢カルチャーセンターにて九星気学、風水、人相学の講師として活動中

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ヨガ教室

 ヨガ教室

     奥山 礼紫

自宅近くのスポーツジム内にあるヨガ教室に通い出したのは20代の頃。
当時は軽快な音楽に合わせてエクササイズするエアロビクスが人気で、レオタードにヘアバンドの活発そうな女性たちで賑わっていた。
その明るい活動的なイメージのエアロビクスとは真逆のどちらかというと暗いイメージのヨガ教室に通うことに決めたのは、未知の世界への興味。単に好奇心であったからだと思う。

初めてのヨガレッスン。Tシャツにジャージの飾り気のない先生の装いから、シンプルな印象。5人ほどの生徒は全員女性。30代、40代年齢層に幅があるように思えた。
音楽もなく静かな教室で、目を閉じ座禅を組むと、お腹に沢山の空気を吸い込んで、お腹がペタンコになるまで息を吐き出す腹式呼吸から始める。
鼻から息を吸って口から細く長く息を吐きだす腹式呼吸を繰り返していると、自分の呼吸にどうしても意識が集中してくる。
ただ吸って吐いての呼吸を繰り返しているだけなのに、それがとても心地良い。
体のあちこちに余計な力が入りこわばっていたのが、スーと力が抜けていく感じがする。
ヨガの先生がチーンと金の音を鳴らす。目を閉じているため聴覚が敏感に反応する。
「次々に湧き上がる心の雑念が静かに流れていくのを意識して・・」

 目を閉じ座禅を組んだ時には、まだ落ち着かず心が定まらなかったのが、呼吸を始めてから不思議なスピードで整ってきた。

ヨガには、上向きの犬のポーズ、下向きの犬のポーズ、ワシのポーズ、木のポーズ、三日月のポーズと自然由来の名前が多い。名前から想像できるようにシンプルで無駄のないポーズが多く難易度はそれほど高くない。
しかし雑念が頭をよぎり、体のバランスを崩すと途端にポーズも崩れていく。
「心ここにあらず」の状態が自分でもはっきりと目に見えてくるのである。
社会に出たばかりの20代の頃は、仕事に悩み、人生に迷い、心に葛藤を抱えていたので、雑念が次から次へと湧いてくる。週2回のヨガ教室でそんな自分の内面に気づき、反省したり、考え過ぎていることを考え直したりと心と体のバランスを整えていた。

最後にシャヴァーサナという亡骸のポーズ。
これは全身の力を抜き、ただヨガマットの上に横になって寝ているだけである。
「両足、体、両腕と順番に深く沈み込んでいく感じ、頭の中の悩みが遠くへと離れていく」
先生の表現がぴったりとあてはまるように、心と体が静かに深く沈んでいく感覚に心の疲れも体の疲れも消えている。心と体がつながった。

単なる好奇心で通い始めたヨガ教室に、知命を過ぎた今も通い続けている。
その時々の年齢で考えや悩みも変化しているが、これからも生きている限り心の中の雑念は消えないであろう。
レッスン後の帰り道の清々しさに「ナマステ」ありがとうの気持ちで今日もヨガ教室に通う。

人生のタイミング

奧山 礼紫(おくやまれいし)
東京都出身 新宿区在住 2月7日生。
12歳から4年間英国ロンドン在住。帰国後、大学在学中に米N,Y州コロンビア大学Political Science短期留学、立教大学大学院史学研究科博士前期課程修了。広告代理店、BS放送局勤務後、フリーライターとして、日本航空機内誌「アゴラ」にて海外で活躍する日本人アスリートのインタビュー記事を担当する。花見正樹師に師事して九星気学、四柱推命を学び、現在、新大久保「幸運占館」で対面鑑定、yahoo占いコーナー、各種占いコラムを掲載中。また志木カルチャーセンター、新所沢カルチャーセンターにて九星気学、風水、人相学の講師として活動中。

 

  人生のタイミング

     奥山 礼紫

7時20分。朝のテレビ番組の占いコーナーが始まる時間である。
「今日のあなたの運勢は中吉。友達と些細な事で喧嘩してしまうかも。オレンジ色のグッズを持っていると仲直りできそうですよ。」
明るい女性アナウンサーの声と共に、すぐにオレンジ色のものを部屋中探し回る。
そして決して学校で使うことがないであろうオレンジ色のマグカップをカバンに忍ばせ登校する。
オレンジ色のマグカップ に対する画像結果 占い結果が良い時は、全てが順調に進んでいくような気がして足どりも軽くなり、反対に悪い時は少し嫌なことがあると、占いが当たっていたと妙に納得していたように思う。
朝一番のテレビの占いコーナーだけではなく、新聞や雑誌の一言占いにもかかさず目を通していた。
占いが大好きというわけではないが、星からのメッセージ、未来預言などといったタイトルに神秘的なものを感じていた。
西洋占星術も四柱推命もわからなかったが、占いの持つ世界観が好きで興味があったように思う。

ある日テレビで数々の文学賞を受賞し、直木賞の候補にも上がっている有名作家たち5~6人の対談番組を見た。
その中の作家の一人に、『4TEENフォティーン』で直木賞を受賞した石田衣良がいて、彼が小説を書くきっかけとなった話しをしていた。
大学を卒業後、フリーターや広告代理店でコピーライターなどの仕事を転々とし、ゆくゆくは広告プロダクションに就職しようかと考えていたという。
そんなある日、仕事の帰りにたまたま立ち寄ったコンビニエンスストアで女性誌をパラパラとめくっているとページ隅の占いコーナーが目に留まった。
「牡羊座は今後2年、土星の重圧がかかる。その間に真剣に仕事をすれば自分の中にある何かをクリスタライズ(結晶化)できる」
この言葉が心に突き刺さったという。
彼にとってそれは小説を書くことじゃないかと思い、翌日から小説を書き始め2年後に最初の単行本が書店に並んだという。

 子供の頃から大の本好きであったが、ただ好きというだけで職業にできるほど物書きの世界は甘くないと考え、それまで小説を書いたことは一度もなかったという。
石田衣良の作品は、街の細やかな描写と登場人物の内面を繊細に描く作風がとても印象に残る。
数々の文学賞を受賞した作品はいくつかテレビドラマや映画にもなった。
そんな彼もたまたま立ち寄ったコンビニエンスストアで雑誌の占いを見ていなければ、小説家としての道は無かっただろうと語っていた。
占いの一言が彼を突き動かし彼の運命を大きく変えたのである
私は石田衣良の話に占いの力に釘付けになった。その日を境に占いを見るだけでなく、その背景や鑑定方法についてもっと知りたくなったのである。

新大久保で占い鑑定を始め、8年目となった。
高校生から会社経営者まで幅広い年齢層の人が日々訪れる。
ふと、鑑定を続けている自分の姿に石田衣良の姿を重ねてみる。
私もたまたま見たテレビ番組で石田衣良の話しがきっかけとなり、それまで興味があった占いが今では生業となっている。
長い人生の中で何がきっかけとなるかはわからない。
しかし人生が大きく動きだすのは、ほんの些細なタイミングと少しの勇気であったりするのだ。

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