夕焼けの恋

「夕焼けの恋」
       児玉 多代。
 
 私は今、多忙です。
 ある生涯学習の勉強会で更級日記の講義を受けたり、明治座の若手花形歌舞伎、夜の部に駆けつけたりします。
 毎日、朝から晩まで何がしかの用があって出歩くのですが、やはり、年齢を重ねると疲れるのを最近は感じています。
 ところで恋に関していえば、だんぜん男性のほうが純情で、夢を持っているのではないでしょうか?
 私の周りの、再婚した友人夫婦らは、いずれもご主人が奥さんに尽くし、女性ははっきりと自分を主張しています。
 再婚を考える女性は、経済的な理由が多く、また他人と一緒に住むことに抵抗がない人ではないでしょうか。
 また、家族と一緒に暮らしている人も、結婚を考えるようですが、私の周りにいる仕事をしてきた一人暮らしの女性は皆独身を楽しんでいます。
 もう、一人暮らしに慣れて、誰かと一緒には住めません。
 気難しいご主人をもつぃ友人に、
「あなたは自由で良いわね。私は急いで帰って夕飯の支度をしなければ……」
 このようにうらやましがられたので、彼女に慰める意味もあって
「あのね、自由と孤独は表てと裏 あなたを待っている人がいる夕飯を楽しみにしてくれる人がいる、素晴らしいじゃないの。私は、これからぶらぶらして、知り合いの店で夕飯を食べて帰るわ。一人分の食事を作るのは面倒だから」
 これは半分は本音です。
 ただ、ちょっと見のいい男性に会っても、もう胸がときめかなくなったのは寂しい事です。
 昔、30年以上前ですが、平岩弓枝原作の”夕映えの恋”か”夕焼けの恋”か題を忘れましたが、家元の息子、若き日の団十郎と50歳の若尾文子の恋物語で、年があまりにも上だからとためらっていた若尾文子が結局恋にのめりこんでいき言ったセリフ、”女が女で無くなる前に、夕焼けのように赤く燃えたの”という言葉がありました。
 私のケースは、母と一緒に銀座の花見サロンに結婚相談に伺った内容が最後の恋でした。
 結局、相談内容と関係なく、その時の諸事情で結婚を断ったら、彼は怒り、こう言ってそれきりです。
「男が子供を産んでくれと言うのは、本気なんだぞ!」
 私が、恋人のままが良いと言ったものですから……。
 あれが私の夕焼けの恋だったのかも知れません。

(注)元ツアコンの親玉で数ヶ国語を操り外国旅行のガイドブックの著作も何冊もある才女です。