月別アーカイブ: 2015年11月

冬深む 藤井美晴(あばれ傘同人)

干し鰯 

冬深む
        藤井 美晴

 草枯るる九重岐(くじゅうわかれ)を風が過ぐ  

 枯葉踏む音や瀬音にまぎれつつ

 唐戸から壇ノ浦まで冬夕焼

 電線にからまれている冬入日

 漣(さざなみ)や彼岸の冬灯彼岸まで

 枕辺の「静かなるドン」冬深む

 海に向く門前うるめ鰯干す

 昨夜(さや)よりの風ゆるみけり初明かり

 山門に磯の香りのあり実千両(みせんりょう)

 晴れ渡る相模の海や寒椿


夢の世 安藤久美子(やぶれ傘同人)

酉の市 

夢の世
    安藤久美子

 溜息をひとつ秋日の限りなく

 もう弾かぬピアノの埃菊の昼

 お酉さま小判に鯛におとめたち

 よく晴れて北鎌倉の落葉どき

 葉籠りの寒椿ある山路かな

 羽子板市押絵のことをみなが言う

 木枯らしの夜は酒強き人の輪に

 甘味噌を載せ小太りがいい大根

 夢の世の柚子湯の中に瞑りて

 水仙の揺るるしぐさに匂ひたつ


寒椿  国保八江(やぶれ傘同人)

寒椿

 寒椿
         国保 八江
 雀二羽発てば五羽発つ冬田かな

 人訪ふと小春日の坂のぼりゆく

 石庭の砂の波紋に落葉かな

 あふぎ見る冬満月と飛行船

 丘陵の南斜面にミカン狩り

 冬紅葉頭に肩に落ちにけり

 銀杏散る皇女の墓に卵塔に

 鎌倉の隠れ径とや寒椿

 餡こよし辛味もよしと餠を食う

 数え日や荷物両手に月仰ぐ


秋から冬へ 丑久保勲(やぶれ傘同人)

もみじ
秋から冬へ
              丑久保 勲

 障子紙をはがす背中の小春かな
            
 消しゴムの屑集め寄せ集む秋あかり

 陵線に午後の青空紅葉山

 新雪の男体山を真向かいに

 日光の楓紅葉にまみえけり

 黒板のシェフのお勧め暮れ早し

 秋の日の影くっきりと石畳

 短日の法律事務所すり硝子

 雲よぎる冬の日ざっと青ざめて

 木枯らしや一等出でし籤売り場