月別アーカイブ: 2016年11月

秋空を飛べ  高橋 禮子

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秋空を飛べ

         高橋 禮子
 
 出さねばと思う便りがあるもんでついに書きたる君への便り

 近寄るを感知されたか背の低き南天の枝にとかげの静止

 私にまとわるつきたる一匹の蚊ありひいひい世をすねており

 池袋二十五階の窓に見た月夜のビル群赤い点滅

 実らざる恋はこうして土深く埋めておこうマンゴーの種

 大変なことをしてると思わずにやってしまうか事件というもの

 十二時を待たずに寝れば目覚ましの支配は受けない六時の起床

 バスタブにぷかり顔出す歌のあり何はともあれメモ残すべし


にらめっこ    高橋 禮子

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にらめっこ

               高橋 禮子

 届きたる歌集の校正済まさんとふっくらいなり五個の昼食

「徐ろ」でなくて「徐」それなら「おもむろ」にする歌の校正

 混じるにはあらず交じると言われれば確かにしかり即断をする

 微妙なる味わいそして独自性ひと文字ふた文字油断をsるな

 ほころびを見つけて補修するような気分にさせる赤鉛筆は

 プロセスならん校正に手抜きはあらず生む覚悟です。

 なかなかにこれでよしとは思えずに次の頁とまたにらめっこ

 そとは雨かぜさえ強し夕べ見た桜散るなよ花いろ透かせ

 このゲラを送り返せば空いろのわれのスペース少し広がる

 きのうより十度も低い春まひるこもるリビングわれの工房


サザのコーヒー   高橋 禮子

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 サザのコーヒー

高橋 禮子

わたしにはおとぎの世界に二億もの相続税を払った話

 そのむかしセルビア王国発祥の地とされているコソボどうなる

 あるはずの車が無いというだけで留守と判断する友のあり

 身の回り片付けるべし要らざるは捨つるべきなりごみの哲学

 教職にあるころそうだそういえばおりおり思えり大岡越前

 人のことどころじゃないのに人のこと抱えて走る師走の下旬

 黄昏の風は鴇色吹かれゆくさくら花びらひたすらひろり

 セラミックヒータふおんと唸らせて詠むぞ詠まねば月夜のがまん

 不覚にも立ってしまったわが腹は横になりても横にはならず


パンと太陽    高橋 禮子

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 パンと太陽

高橋 禮子

 人のすることはこれなり人道を説きつつ終にユーゴ空爆

 言論の自由と武力行使とが同居させられ移民多し

 分かってはいてもどうにもならぬゆえ蟻になりたい黙黙黙黙

 いつどこですれ違うのか北へ行くあなたと南をめざす私

 一日に君の書きたるこの便り二日の消印届くは三日

 ごみの日を人も鴉も待つという昔むかしはなかったことなり

 静けさの中にふたつのくしゃみあり雑誌読みいる二時の図書館