隠居の悲しみ


 3月もあと1日、2日後には増税で不景気の新年度がスタートします。もうすぐ、小さな体に不似合いなランドセル姿のチビっこ1年生もあちこちで見られます。
 今朝のテレビでみた天気図では、低気圧が急速に発達しながら本州に急接近しています。多分、この日曜日の夕方には全国的に雨や風が強まることでしょう。
 桜はまだ3分咲きですから散ることはありませんが、春の嵐は気まぐれですから大雨暴風には警戒が必要です。局地的にしろ激しく大量の雨が降れば、低い土地の浸水や土砂災害などで被害も出ます。こんな日は家にいるに限ります。
 5、6年前までは休日の夜明けには栃木の山に入って渓流釣り三昧だった自分が、呆れるほど出不精になっています。
 その一番の理由は、いつも一緒だった釣友を失ったことで、二番目は自分自身の体力の衰えです。以前なら多少の雨など気にせず釣りをしていて、増水に気づいて崖を登ったことも何度かありました。
 6月解禁の鮎に備えて体力づくりを兼ねての山釣りです。3月の渓流釣り解禁には夜明け前に河原で火を焚いて暖をとったものです。その釣友は私と同年で漁協の役員でしたから、ヤマメやイワナの溜まり場を熟知しています。
 そこで私のような下手な釣り師でも釣れたのです。雪が解けて渓流の岸辺の梅が終るとコブシが純白の花を咲かせ、桜がそれを追って咲きます。
 私は桜が好きです。
 桜の名所はあちこち見て歩いていますが、最高の穴場は家の近所の公園の桜でした。
 7本ほどの木が満開の桜で空をおおって風に揺らぐ光景はまことに絶品でした。
 その桜の下のベンチで、たった一人で本を読むのですが、舞う花びらがページ毎に挟まれてゆきます。ベンチ下の地面は花の絨毯になり素足でも汚れません。
 この年に一度だけの贅沢、これが近所の公園で独り占め出来たのです。
 なぜ、これが過去形かと言いますと・・・木の枝がそっくり切り落とされていたからです。
 花見の名所だった青梅公園の桜は、蔓延するサクラウイルスで全滅ですが、ここは違います。公園の脇に住む住民が、桜の花びらでドブが詰まって排水が滞り庭に多少の被害が出たと陳情したそうです。
 被害の弁償を訴えられた市では、その陳情を受け付けて公園の木の枝を切ってしまったのです。なにか、もっといい解決策はなかったのか?
 年に一度の密かな楽しみを失った隠居の悲しみは・・・桜のミツを失った蜂どもなら理解してくれるはずです。