月別アーカイブ: 2019年7月

劇場・小屋めぐりとテレビ出演-3

幸福を売る男

芦野 宏

Ⅱ 夢のような歌ひとすじ

4、世界一周と海外録音

劇場・小屋めぐりとテレビ出演-3

 五月に入ってまもなく、ある日、NHKの磯村氏からお電話をいただき、ご夫妻に連れられて、モンマルトルへ行くことになった。リユシエンヌ・ポワイエが自分の店ヘアシノさんをぜひ連れて釆てほしいと言われたとのことであった。彼女はたまたま私が出演したテレビ番組のなかで、「ラ・メール」が気に入ったから店でも歌ってほしいとのことである。五月のパリは、一年じゅうでいちばん良い季節、フォブール・サントノーレ祭りの夜だった。高級ブティック
や老舗の店頭にはそれぞれ自慢の商品がデコールされており、なんと舗道には各店の銘柄の香水が撒かれたと聞いている。五月の宵、フランス語にご堪能なご夫妻と三人でゆっくりパリの夜を散歩しながらビギヤールに出て、モンマルトルの坂道を上っていった。ダミアの住まいからそう遠くない場所に「シエ・リユシュンヌ」があった。
ボワイエは丸顔で小柄な円満そうなマダムだったが、やはりパテ・マルコニで歌手としてデビューした娘のジャクリーヌ・ボワイエクリーヌが一曲歌い、私も「ラ・メール」(ヒット曲「トン・ビリビ」)も一緒だった。まずジャを大スターの前で歌うと、彼女はたいへん喜んでくれて、お返しに有名な「パレ・モワ・ダムール(聞かせてよ愛の言葉を)をささやくように歌ってくれた。彼女は静かに、じつと動かないポーズで歌った。クープレからルフラン(繰り返しの部分)に移るところで、ちょっとだけ膝が動くと、紺色の絹のドレスが少しだけ揺れて美しい影ができた。まさに心に沁みる絶唱だった。

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日本シャンソン館の新着情報

8月のライブスケジュール
※変更になる場合がございます。ご了承ください。

日 時
開演時間 出 演
8月3日(土) 11時~/14時~ 桜井ハルコ    ピアノ:日野香織
8月4日(日) 11時~/14時~ あみ         ピアノ:今野勝晴
8月10日(土) 11時~/14時~ 岩崎桃子      ピアノ:日野敦子
8月11日(日) 11時~/14時~ 原れい子      ピアノ:安藤伸彦
8月12日(月) 14時~ のど自慢 vol.23
8月17日(土) 11時~/14時~ MIKAKO      ピアノ:大美賀彰代
8月18日(日) 【中庭】
11:00~11:45
【ヴェルメイユ】
13:30~15:00 2019年 群馬県 第15回 “生きる” 小児がん征圧「天使の泉」チャリティーコンサート in 日本シャンソン館 Vol.54
8月24日(土) 11時~/14時~ 山添恵子      ピアノ:大美賀彰代
8月25日(日) 11時~/14時~ 小林美恵子    ピアノ:江口純子
8月31日(土) 14時~ 2019年プリスリーズ新人賞受賞歌手5名による シャンソンコンサート

2019年8月31日(土)
2019年プリスリーズ新人賞
受賞歌手5名によるシャンソンコンサート
出演:八田朋子、小峰里緒、SAKURA.、セニョリ~タとも夜、依田知絵美
小林ちから(ピアノ)
時間: 開場13:30 開演14:00
料金:一般4,000円/友の会会員価格3,500円/29歳以下の方3,000円
会場:日本シャンソン館2F シャンソニエ「ヴェルメイユ」
主催:日本シャンソン館
後援:一般社団法人 日本シャンソン協会

チケットは日本シャンソン館でお求め頂けます

2019年8月12日(月)
日本シャンソン館
のど自慢 vol.23
参加者募集中
(裏面) ご案内:日本シャンソン館館長 羽鳥功二
ピアノ:大美賀彰代
司会:飯塚裕美
時間:14:00開演
参加費:一般4,000円/友の会会員価格3,000円
会場:日本シャンソン館2F シャンソニエ「ヴェルメイユ」
主催:日本シャンソン館
★どなたでもご参加いただけます。
★歌唱曲はシャンソンに限らせていただきます。
★楽譜をご持参ください(お一人一曲)。
★当日の午前中に譜面合わせを行います。
★最後まで思う存分歌って頂けます。
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観覧料:入館料(1,000円)のみでお聴きいただけます♪


劇場・小屋めぐりとテレビ出演-2

幸福を売る男

芦野 宏

Ⅱ 夢のような歌ひとすじ

4、世界一周と海外録音

劇場・小屋めぐりとテレビ出演-2

 スタジオに入って、またびっくりした。私のために特別に製作してくれたセットが、まるで中国なのである。担当者は得意げに胸を張って自慢した。1あなたのために特別に注文して作りました」というのである。本番まであと数時間、私は呆然としてしまったが、今さら取り替ぇてもらうこともできず、また取り替えるにも実物があるわけでもなかろう。仕方なく私はその中国風のバックの前で歌わなければならなかったのである。セットは海に向かった中国風の
テラス、そこに紫檀のアームチェアがあり、中国のランタンがつり下がっていた。ほんとうはなんの飾りもないベンチに、岐阜提灯でもあれば日本らしかったと思うが、もうあとの祭りでぁる。私はそこで「ラ・メール」を歌い、遠い東洋を思い出すという演出に従わなければならなかったのである。
しかし考えてみれば、無理もないことかもしれないと思うようになった。なぜなら、われわれがもしヨーロッパの部屋を想像で演出してみても、フランスの椅子、ドイツの椅子、イタリアの椅子、イギリスの椅子、そぞれの微妙な違いがわからないと同様に、東洋の日本と中国と韓国の区別などよくわからないのも無理はないからである。放送時間が少ないだけに、フランス人はテレビをよく見ているのだろう。あとで私がリユシエンヌ・ボワイエから招かれて、
彼女のモンマルトルの店でお会いできたのも、この番組を彼女が娘のジャクリーヌ・ボワイエと一緒に見ていてくれたからである。


劇場・小屋めぐりとテレビ出演-1

幸福を売る男

劇場・小屋めぐりとテレビ出演-1

四月から五月にかけて、パリのいちばん良い季節に、私はほとんど毎日、劇場めぐりをした。
シャンソン小屋はコンセール・パタラなど場末の小さなところまで探しながら歩きまわり、ミュージツタ・ホールのオランピア
やポピノへは出し物が変わるたびに出かけた。ジョルジュ・ブラッサンス(歌手、作詞作曲家)とも何度か会って、依頼されて
いた日本公演を打診したが、愛想もなにもない表情で日本行きを断られた。「言葉のわからない連中に、おれの歌がわかるわけ
はないから」と同じ答えを二度聞いたので諦めた。
フランスのテレビ放送は、日本よりも少し遅れて発足したように思う。日本でもまだモノクロの時代だったが、フランスの同
営放送は昼に一時間ぐらい放送すると休みになって、夕方から夜にかけてまた始まるという状況であった。視聴率は高く、テレ
ビのあるところでは、ほとんどの人が見ていた。私はレコードの吹き込みを終えたあと、今度はフランス国営放送〈ORTF、昭和四十九年に解体、七会社に分割)のテレビ番組に出演することになった。たしか『ディスコラマ』いうタイトルで、レコードの新譜を紹介する番組だった。日本のテレビ局でもあのころよくやっていた、音に合わせて、歌っているように画面に向かって口をあけるやり方であった。
一週間も前からテレビ局の人がホテルに来て十分な打ち合わせをしたから、安心して本番に出かけることができた。スタジオに入るとき、日本人の通訳がカメラを持っていたら、入口で取り上げられてしまった。スタジオの中は撮らないでください、と言われたそうである。たしか前の年、クリスチャン・ディオールのファッションショーで日本人の一人がディオールのデザインを盗み撮りして問題になったことを知っていたので、なるほどフランスという国は、アイデアを尊重しているのだなと思った。