埋蔵金秘話

花見正樹作

第一章 芭蕉の里・黒羽

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1、人命救助


「ノブさんはいいなあ、いつも美人のカアちゃんと一緒で!」
車で通りすがった役場職員の釣り仲間が、菊池信方と浩子の姿を見て窓を開き、ヤキモチ半分の冷やかし言葉を投げて行く。
鮎に気を取られている信方は見向きもしないが、浩子が振り向いて「どうも……!」などと、愛想よく笑顔で返事をしている。
周囲に人がいなくなると、浩子が厳しい表情で口を尖らせた。
「もう代理運転なんてイヤよ! 交通違反で免停なんて……」
「そう言うな。あと何日かの辛抱なんだ」
「半年になるのよ。署長に頼めば三カ月で済んだのに」
「免許がなくても困らん。鮎の解禁に間に合えばいいんだ」
「その分、あたしが迷惑してるのよ」
「感謝してるさ」
日本友釣り会連盟選手権で二年連続優勝、G杯FT鮎選手権三年連続優勝、G杯全国大会準優勝二回など、数々の戦果で日本有数の鮎釣り名手で知られる菊池信方の年間スケジュ-ルは、釣り具メ-カ-・ガマツカのテスタ-としての行事や鮎釣りの予定を含めて超多忙、その全てが家族の並外れた犠牲の上に成り立っていた。
二十五歳の結婚を機に自立して始めた自動車関連機械設備製作の那須精密工業(株)は今や従業員八十人、信方の不在時は妻の浩子が経理、工場長で弟の健二郎と、長男の孝志が協力して代行を勤めている。
五月、鮎の季節になると信方の頭の中は鮎のことだけになる。
那珂川は、栃木県北部に位置する那須の茶臼岳を源流として、黒磯、黒羽から水戸平野を抜けて太平洋に流れ落ちる全長約百五十キロの堂々たる大河である。下流にダム堰のないこの那須の川に春が訪れると、茨城県那珂湊の河口に集結した何百万尾という小鮎が群れをなして遡上し、清流の石に付着した水苔の餌場を求めて長い旅に出て遡ってくる。
名鮎会(めいせんかい)の会長で鮎名人で知られる菊池信方は、遡上する天然鮎や放流した稚鮎の生育が気になって、一日に一度は川を見回らないと落ちつかない。その情報をまた釣り雑誌や関係各団体に流すことで、解禁待ちの釣り人を鮎の漁獲量日本一の那珂川へ呼ぶことになる。この日も仕事の合間をみて、妻の浩子の運転する四駆で黒羽地区にかかる那珂橋に来ていた。

しかし、この日の信方には、妻の知らない別の目的がある。
西側橋際の花月ホテル駐車場に車を預けた信方と浩子の二人は、那珂橋中央の歩道側欄干に立ち眼下の川底を覗いていた。すでに十五センチを越えた遡上鮎と県産の放流鮎が、早くも石まわりで縄張り争いを繰り広げて水中に輪を描いていた。魚影は濃い。
「今年はな、琵琶湖産をやめて群馬の石坂さんが育てた稚鮎に代えたんだ。追いがいいから素人でもジャンジャン釣れるからな」
「もう帰りましょ。あなたが見てたって鮎が増えるわけじゃないでしょ?」
「もう少し鮎の縄張り争いを見て行くから……先に行って、花月で料理長とコ-ヒ-でも飲んでてくれ」
「バカバカしい、じゃあ、先に行くわよ……」
浩子の後ろ姿を見た信方は、川から目を離して時計を眺め、何かを待つように橋の両側に視線を走らせた。
橋を歩きながら川面を眺めた浩子が、あわてて信方を呼んだ。
「見て、もしかしたら……人間じゃない?」
和子の指さす上流から、たしかに青っぽい服を着た不精髭の若い男が泳いでくる。見てる間に橋の下近くまで泳いで来た男は、信方を見て手を上げて合図をすると、急に力尽きて溺れたのか水を掻いて暴れ、浮き沈みして流れてくる。
「溺れてるんだ……!」
信方が素早く反応して動いた。
どこからかパトカ-のサイレンが近づいて来る。
土手を降りる時間がないと悟った信方は、水面から七メ-トル以上ある橋の上でブルゾンもスポ-ツシュ-ズも脱ぎ捨てて橋の欄干を乗り越える。
「あなた、危ないからやめて!」
信方はためらう様子もなく上着と靴を脱ぐと足から飛び、妻の声を空中で聞いた。二メ-トルもない川底に足が滑って横倒しになるが、すぐ立ち直って流れる男を目掛けて泳いだ。
ようやく信方の手が男の右足に届いたが、押しの強い水流は二人に加速を与えて接岸へのチャンスを奪う。片手で泳ぐ信方はなかなか岸に近づけない。
浩子が橋の下流側の欄干に走って見ていると、一度、左岸の水量計のあるテトラまわりで止まりかけたが、足場が悪かったのかまた倒れて流され、その下流で二人は接岸した。若い男は、信方に抱えられて岸に上がって倒れ、水を吐いた。
信方が小声で励ます。
「孝二、大丈夫か!」
「溺れた振りをしたら……」
「バカ! それならもっと協力して泳げ」
「本当に水を飲んじまったんだ……」
孝二と呼ばれた若者が、またせき込んで水を吐いた。
「なんで泳いで来たんだ?」
「両岸とも手がまわってて、約束の時間に……」
「安心しろ、二分前だったぞ」
パトカ-のサイレンが近づいている。孝二があわてて濡れた囚人服のポケットから、折り畳んだ紙片入りのポリ袋を出して信方に手渡した。
「ノブさん、約束の……」
「このまま逃げるか?」
「もう限界なんで……」
「これでまた一年は刑期が延びるぞ」
「模範囚だし、金さえあればどうにでも……」
「そうか……半金は預かっとくが半金はどうする?」
「面会で」
「分かった、近いうちに持ってくからな。じゃあ寝てろ」
信方がポリ袋入り紙片を、ずぶ濡れのズボンのポケットに押し込むのを見た孝二は、安心したのか力尽きたように目を閉じて信方の腕の中に倒れて気を失なった。
「なんだ、これじゃ本当に死んじゃうぞ!」
崩れ落ちた孝二を、あわてて草むらに横たえた信方が橋の上を見上げると、浩子が小走りに橋を渡り切るのが見え、その後から赤色灯を回転させた栃木県警の白パトが渡る。さらに、黒パトとも呼ばれる覆面パトカ-が続いた。
黒パトの運転席から顔を出した若い刑事が橋の上から、岸にたどり着く寸前の二人を確認して大声で叫ぶ。
「主任! やっぱり、仲間らしいのが一緒です」

やがて、川魚の升田屋前の坂から下って土手道を走行した二台の警察車両が信方と孝二のいる河原上で停まり、車から飛び出した制服の警官と私服の刑事が拳銃を構え、殺気立って殺到した。
「きさまが手引きしたのか!」
いきなり拳銃で胸を小突いてきた私服の右頬に、左利きの信方のパンチが炸裂した。怒った刑事と信方が揉み合いになる。
追いついた浩子が、土手道を八十メ-トルほど下流に駆け、荒い息で走ると土手に警察の車があり、人だかりがしていた。
溺れて気を失ったらしい男の周囲では、警官と私服数人が応急処置もせずに、信方らの立ち回りを傍観している。
やがて、多勢に無勢の信方は奮闘の甲斐なく、愛妻の目前で取り押さえられ手錠を噛まされた。それを見て浩子があわてた。
「あなた!」
浩子が叫ぶと、信方を押さえていた若い刑事が振り向いた。浩子に見覚えがあるらしい。あわてて信方の肩から手を放した若い刑事が、立ち上がった挙手をする。
「失礼しました。孝志君と同級の斉藤彰です」
「知ってるのか?」
年配の刑事が不審がる。
「はい、知っております……」
「こいつら誰なんだ?」
「法師畑の菊池さんといいまして、私の同級生のご両親です」
「菊池って那須の菊池屋敷のか……間違いありませんか?」
「ええ、この人は夫の菊池信方、わたしは妻の浩子です」
浩子が、若い刑事をしげしげと眺める。
「やっぱり、彰君なのね? 立派になったわ」
信方が怒鳴る。
「なにが立派だ、こいつらは給料泥棒だぞ……」
信方に殴られて出血した頬を押さえた年配の主任刑事が、顎をしゃくって聞く。
「法師畑の菊池といえば先祖代々の那須の名家だ。だが、そっちのヤツは脱獄囚だぞ。あの男とはどういう関係だね?」
「関係なんかあるものか!」
信方が怒るから、浩子に質問する。
「奥さんは、ご存じですか?」
「あの人が溺れて流れて来たから、夫が橋から飛び込んで救助しただけです」
「なんだって? おい!」
主任刑事が凄い目で、斉藤と名乗った部下を睨んだ。

 

2 脱獄囚

「仲間らしい男がいるって言ったな!?」
「済みません。間違いのようでした」
痛そうに頬を押さえて、口許を歪めた主任刑事がほこ先を信方に向けたが、口調には刺がある。
「あの男と、なにを話した?」
「頑張れって、励ましただけだ」
「じゃ、なんでワシを殴った?」
「そっちが先に手を出した、肋骨が折れてたらどうする?」
「うるさい! ワシも歯が折れた。だから公務執行妨害できさまを逮捕する」
「面白い、あんたの名前は?」
「黒羽署の西島だ。文句あるか!」
「よくも善良な市民を……」
「刑事にケガを負わせて、なにが善良だ!」
斉藤があわてて二人の中に割って入った。
「孝志の兄さんが善良かどうか知りませんが、シロは確かです」
「オレは善良だぞ」
「そうだ、そうだ……」
大声に驚いて背後の土手を見上げると、自転車に跨がった太めの男が叫んでいる。騒ぎに気づいて来たらしい那珂橋西詰めの花月ホテルの永山という名物総料理長が、倒れている男を指さした。
「善良なノブさんが、その男を殺したのか?」
「なんだ料理長、なにを言いたいんだ?」
と、西島が怒鳴る。
「その菊池のノブさんはな、やたらに人殺しはせん」
「コロシじゃない、溺れただけだ。さっさと厨房へ戻ってろ」
信方が本気で怒る。
「料理長! やたらにとは何だ?」
「ノブさんには激流を渡らされて、オレも二回は死に損なってるからな。そいつもそうか?」
西島が、総料理長を無視して信方に向かう。
「とりあえず、身分証明に免許証を見せてもらおうか?」
「ない!」
「ないって、どういうことだ?」
「免停中だからだ」
「免停? 人を撥ねたのか?」
「冗談じゃない。たかが六十キロオ-バ-で半年も免停だぞ」
「六十キロ? そいつは立派な犯罪じゃないか。どこが善良だってんだ。ふざけるな!」
「うるさい。無抵抗の市民を小突いたきさまを訴えて、新聞にも乗せてやる。罪もない市民に手錠を掛けやがって」
「訴えられるものなら……いや、新聞はまずいな」
証拠が何もない。西島が自分の不利に気付いたらしい。
「ワシが悪かった。こいつの……この人のワッパを外してやれ」
西島主任刑事が信方に頭を下げて詫び、この場は収まった。
「それにしても痛いし腹が立つ。何もかもこいつの所為だ」
西島が腫れた頬を押さえて倒れている男を睨んだ。部下の斉藤刑事が報告する。
「いま救急車を呼んでます」
「こいつの状態はどうなんだ?」
「危篤状態だと思いますが、放っておきますか?」
「そうもいかんだろう。救急車はすぐ来るのか?」
その声を耳にした浩子が、男に近づいて膝をつき手首を握って脈を確かめ、身近にいた警官に告げた。
「少しですが鼻からメレンゲ(微小泡沫)が出ています。少し水を飲んでますね。わたしが合図したら、胸と胃のあたりを強く押してください。水を吐かせます」
けげんな顔の西島に信方が説明する。
「ワイフは国立病院のナ-ス長だったんだ」
「そうか……すまん」
現金なもので言葉づかいまで変わっている。
「ところで、この男がなにをしたって言うんだね?」
信方の質問に応じて、態度が少し和らいだ西島が説明する。
「こいつは藤堂孝二という若手の自称歴史研究家だが、知り合いの大工から、城址跡の城代家老屋敷の改装に入った際に盗んだ仏像を安く買い叩いて、骨董屋に売りとばしボロ儲けしようとした。
それだけなら罪も軽微だったが分け前で揉めて、その大工に手傷を負わせている。その結果、懲役一年でそこの黒羽西刑務所に服役中だった。素行もよく模範囚だからと外の清掃作業をさせてたら逃げたとか、もうすぐ刑期が終わるっていうのにバカなヤツだ」
「どうやって逃げたんだね?」
「昨日の午後、外仕事中に見張りの看守の目を盗んで、通りがかった車を脅して逃げてるんだ。今朝になって、芭蕉の館の床下にもぐり込んでいたのを管理人に発見されて通報された。
崖道を追いこんだら、逃げ場を失ったヤツは馬洗い場の瀬から那珂川に飛び込んじまった。で、渡り切れずに流されたのか自分から流れたのかは知らんが、橋から見たとき、あんたと二人で岸に上がるのを部下が見て、てっきり仲間だと思ったってわけさ」
「冗談じゃない」
「ところで菊池さん。あんた、昨日の午後二時頃、刑務所前で黒い乗用車を運転して通らなかったかね?」
「やっぱり疑ってるのか? ムカつくな」
「いや、これは職務上の義務で聞いただけだ」
「じゃ、その義務に答えてやる。免停中はな、あんまり運転しないことにしてるんだ」
「あんまりだと! そんなのが事故を起こすんだ」
「大丈夫だ。スピ-ド以外は違反はしないから」
「いいか。もしも囚人の脱獄になどに関係してたら、交通違反どころじゃないぞ」
「余計な心配しないで、ピッキング犯でも追ったらどうだ……」
信方が倒れている孝二を見ると、ちょうど浩子が手を上げ下げして警官に腹部を押すタイミングを指導し終わったところで、人口呼吸で肺に空気を送り込むために、自分の唇を孝二の口に密着させようと顔を伏せたところだから驚いた。
「やめろ!」
思わず走り寄って浩子を突き飛ばす。
「なにするの! この人、水飲んでるのよ」
「こんなの、いつも川でやってるから簡単だ」
信方は警官たちを孝二から離すと、いきなり汚れた濡れ靴下の足で、浮袋にポンプで空気を送り込む要領で孝二のミゾオチを何度も踏み続けた。慣れたものだ。これで激流で死にかけた鮎釣り仲間や弟子達を蘇生させて、十人以上の尊い命を救っている。
「ノブさん、踏み殺すと殺人罪だ。オレが身代わりになろう」
自転車を降りた永山が近づき、孝二を踏もうとする。
「やめてくれ! あんたじゃ本当に死んじゃう」
西島が永山を引き離す。
信方がなおも踏むと、微動もしなかった孝二の身体に変化が起きた。口から水を吹き出すと身体が揺れ、大きくクシャミをして鼻水を流して目を見開いた。
警官があわてて孝二を押さえて手錠をかける。やがて、サイレンを鳴らした救急車が那珂橋を渡って来た。
「もう、これで大丈夫ね」
信方に近づいた浩子が耳元で囁く。
「髭面で分からなかったけど、この人、お友達なのね?」
「まさか?」
「でも、川原での芋煮会で見た額の疵に覚えがあるのよ。さっき、刑事さんが藤堂って言ってたでしょ?」
「思い出せないな。人違いだろ?」
確かに孝二の額には以前から傷痕が刻まれていた。
「思い出したわ。たしか一年ぐらい前に福山さんが連れて来て、家にも上がらず、三人ですぐ出掛けましたね。理由は知りませんが、帰って来たときのあなたは不機嫌でしたよ。たしか、騙されたのかな……とか」
「知らん、お前の思い違いだろ……」
「わたしは、まだボケていませんよ」
「分かった。だが、こんな話は誰にもするなよ」
信方の表情が固い。西島が何かを感じたのか振り向いた。
「やっぱり、こいつを知ってるのか?」
「いや、知らん」
信方があわてて手を横に振った。
近くで若い斉藤刑事が西島に小声で相談している。
「あの菊池さん、人命救助で表彰を申請しますか?」
「とんでもない。そんな必要ない」
「でも、土地の顔役に手錠かけたんですから……」
「ちゃんと外したじゃないか」
「あとで揉めますよ」
「あの菊池こそ公務執行妨害で送検して、脱獄囚なんて溺死させておけばよかったんだ」
「それじゃ個人感情丸出しじゃないですか?」
「当たり前だ……これだぞ」
西島が腫れ上がった口を大きく開いて信方に見せた。
「歯が折れて口の中が切れてるんだぞ、見ろ!」
「なんだ汚い口だな……」
信方が笑った。小さなこと気にもしてしない。
「虫歯があるようだぞ、一緒に直したらどうだね?」
「なんだと……」
西島が喚いた。昔からこんな時の言葉は決まっている。
「いまに見てろ!」

 

3 解禁日の朝

 

静岡県の興津川や狩野川のように五月下旬に解禁する鮎河川もあるが、那珂川の鮎の解禁は曜日に関係なく六月一日の夜明けになっている。その待ちに待ったこの年の解禁が翌朝に迫っていた。那珂川名鮎会の会長でもある菊池信方は多忙だった。
物心ついた子供の頃から、父に連れられて那珂川で鮎を追っていると信方でも、解禁前夜だけは快い興奮で眠れない。
例年のことだけに浩子も心得ていて、夜のうちからワゴン車内の氷を詰めた大型ク-ラ-にビ-ルや酒類、食料などを大量に積み込んでいる。こうなると、夜のうちに出かけるしかない。免停の刑期も終わり、戻った免許証は内ポケットに収まっている。
信方は、前夜祭の集いを行う那珂川河畔のリバ-サイドガ-デンに向かった。そこは昔、黒羽城の馬場から急峻な崖道を降りて軍馬を洗ったところから馬洗い場と呼ばれた川原の対岸にある。
すでに名鮎会のメンバ-が二十人ほど集まっていて、ドラム缶を半切りにして荒灰を埋めた大火鉢に炭と薪を燃やしてイカなどを焼いている。
信方が車から降りて、差し入れのビ-ルや食料を山のように抱えて近づくと拍手が沸く。信方が座に参加したのを見て、別の大テ-ブルで騒いでいた会員も飲み物を手に三々五々集まって来る。
こうなると、初釣りに自信と期待に胸踊らせながら鮎の話題に花を咲かせ、川原から一段高くなったガ-デンの庭先に常設された二十人以上で囲める大テ-ブルを囲んで酒盛りが始まっていた。
そうなると話題は、つい先日の、脱獄して溺れた釣り仲間の藤堂を会長の信方が偶然にも救出し、そのお蔭で警察がその脱獄囚を逮捕できたという、美談かどうか分からない話に花が咲く。
テレビや新聞でも大きく取り上げられ、尾ひれが付いて釣り人の間でも評判になっている。それをまた無責任に脚色して、県内の寿司業界での常任理事で大田原の大タメ寿司の鈴木為三というマスタ-が面白おかしく語り始めたのをきっかけに、永山総料理長や、会社員、木工業、作家、建築屋など十人十色の釣り仲間が、本人を前に酒のサカナにして騒いでいた。
話題が進み、人命救助の表彰についての賛否両論も出る。
「会長がやったのは人命救助だぞ。素晴らしい快挙じゃねえか。表彰されないのはどういうわけだ?」
「だけどな、犯罪者を助けたって表彰の対象になんねえだろ?」
信方を目の前にして、名鮎会の会長の座をひそかに狙っている県会議員の上智という男がしたり顔で言う。
「最初、黒羽市議会でノブさんの表彰を決議したんだが、警県警本部長から異議が出たんだ。ノブさんは確かに藤堂の命を救けた。でもな、スピ-ド違反で免停の処分を受けていた身だ。県警だって犯罪者を救助した犯罪者を表彰するのは前例がないらしい……表彰がパ-になったのも身から出たサビってとこで仕方ないさ」
この男は、総理大臣より鮎の会の会長の方が値打ちがあると信じきっている。上智の説に永山総料理長が反撃する。
「犯罪者だって人間だ。会長がそれを救ったんだ。人道上は表彰に値するだろ? それに藤堂だって鮎釣り仲間なんだぞ」
中国マフィアの蛇頭や上海の黒社会などを書いた著作で知られる放浪のドキュメント作家・森川康夫が髭面の口をはさむ。
「しかし、残念ですな」
「なんだね?」
「この騒ぎを嗅ぎつけた週刊毎朝が、この事件の結末をとらえて、『交通違反と人命救助を同次元で評価するのか!』と、会長を擁護する特集を企画したんです。ところが、取材を深めるうちに特集を持ち込んだ人も、その提案を受けたデスクも旗色が悪くなった。
それは、全国的な鮎釣り名人で知られる会長が、シ-ズン中は車に鮎道具を積んで走り、鮎シ-ズンが終わるとゴルフと鉄砲撃ち、商談などで東奔西走、スピ-ド違反の常習犯であることがバレて、編集者の意気込みも尻つぼみになり、とうとうボツになったというわけです」
「おい、森川先生!」
「なんですか、酔っぱらいの永山さん……」
「その企画を持ち込んだのは、あんただろ?」
「だったら、どうだと言うんですか?」
「あんただって、つい一週間前まで免停食らってたんだ。なんで弁護してやらねえ」
「わたしはスピ-ド違反はしてない。酒気帯び運転で交差点脇の家に飛び込んだだけです」
「あきれたな、よけい悪いじゃねえか」
夜が更けるにつれ、酒が減り話題が盛り上がってゆく。
上智議員が話題を変えた。
「いいか、みんなよく聞いてくれ。誰かノブさんが鮎を掛けた後に入って、大釣りしたヤツはいるか?」
「議員のくせにバカだな。会長が釣りまくった後に残ってるのは追い気のないチビ鮎ぐらいに決まってるだろ」
「だろ? ノブさんはな鮎にとっては天敵なんだ。人命救助もいいが動物愛護で少しは鮎釣りを控えて欲しい。そう思わんか?」
「なるほど、会長がいなけりゃその分、オレ達が釣れるか」
「そこで考えた。シ-ズンを通じて、会長は他県の河川や各地での大会に遠征してもらうという案はどうだね? それとだな……」
議員が続けた。
「その間は、ワシが会長代行をやる」
「なんでだ? 副会長の永さんだっているだろ?」
「これからは、行政が……」
「やかましい、てめえなんか何の役にもたつもんか、くどくど言うと収賄汚職で訴えて、つぎの選挙には立てないようにするぞ!」
「なんだ、ワシがなにをした?」
「ここで何年……タダで酒を飲み料理を食らい、鮎釣りを教わり、会長が九州球磨川まで出張して釣ってきた尺鮎を何匹食った?」
「そんなの汚職に……」
「金に換算したら十万やそこいらにはなるぞ」
「わるかった、県会議員で我慢する。ま、水に流してくれ」
「よし、今からてめえを川に流してやる。それ、みんなで!」
「かんべんしてくれ。ワシは泳ぎは苦手なんだ」
「冗談だ。それにしてもあきれたな。泳げねえで鮎釣りか?」
「そうか? もしかしたら藤堂もワシと同じでカナヅチだったのかな。とすると、ヤツは自殺する気だったかも知れんぞ」
「てえことは、せっかく悔い改めて、死をもって償いをしようとした脱獄囚の人生を会長が狂わせたってことか?」
「お節介なことだな」
「とんでもない間違いを犯したもんだ」
「まてよ……」
ふと、上智議員が腕組みをした。
「ノブさんと藤堂は、なにか企んでるのかも知れんぞ」
「なんでだ?」
「ワシが去年の十一月三日だったか、県議会の関係で黒羽刑務所の家具雑貨即売会に行ったんだ。そのとき、梱包や荷運びを手伝っていた模範囚らしい男がノブさんに近づいて、何やらコソコソと話しかけてたのを見かけたんだ。声をかけようと思ってたら、ノブさんはオレに気づかずに、そっちの隅にいるボ-リング屋の福さんと連れ立って帰っちまったんだ。どうも、そいつが藤堂だったんだな。
怪しいと思えばいくらでも疑える話だぞ。それに、今回の件はノブさんの家庭問題にもなってるらしい」
「なんで?」
「永さんに聞いたが、元看護婦長の奥さんが、溺れた藤堂に口移しの人口呼吸をしかけたんで、ヤキモチを……」
「いい加減にしろ! 女房がいたらバカにされるじゃないか」
黙ってビ-ルのピッチを上げていた信方が、さすがに面白くないのか珍しく怒りを顔に出し話題を変えようとする。
「もう、この話はなしにしろ。それでなくてもデカ部屋で調書までとられて頭にきてるんだからな」
「オレが本当のことを話しますよ」
少し離れた岩に腰掛けて誰か相手を捕まえて黙々と酒を飲んでいた福山地質基礎(株)という穴堀り業の福山が、低い声で周囲を見回した。
「上智議員の言う通り、たしかに会長とわたしは刑務所へ行って孝二に会った。だがそれは、孝二は模範囚なんだから、この解禁日だけでも仮出所できるようにすれば、日釣り券と竿と仕掛けと道具一式を用意しとくからって伝えただけです」
「それで……?」
「解禁日ってえのは年に一度のお祭りですからな。この中で解禁日に竿を出せなかったらどうなるか、体験した人はいますか?」
「オレは盲腸で入院してたが、夜中に病院を抜け出したな」
「そういえば、女房が求めたのを蹴飛ばして解禁日の鮎釣りを優先したために離婚になったヤツがいたな……」
「あんただろ?」
「いや、オレは浮気がバレただけだ」
「それより、孝二は本当に解禁の鮎をやりたいのか?」
「じゃあ、それが本当かどうか本人に聞いてみますか?」
「刑務所に行ってか?」
「いや、ここにいるよ。孝二、話してやれ」
闇から電灯の明るみに出た藤堂孝二が頭を下げた。
「みなさん、ご迷惑かけて済みません。今日一日の休暇で出て来ました。オレは今日、竿が出せなかったら舌を噛んで死んでます」
これでこの話題は消滅し、信方を囲んで鮎の話題になる。
「今日までのところ、南岸が屏風から墓場下まで、北岸はサイズチから落石、馬洗いからパン小屋までの底石にいい鮎が付いている。
今の気温だと、鮎が活性化するまでに水温が上がのは九時過ぎだから、好場所を確保したら九時までは動くな」
そこで個別のレクチャ-が始まる。
「ハリは、七号の三本イカリでいいかね?」
「追えば何だって掛かるのが初期の鮎だから六・五だな。チビ鮎相手だから仕掛けは軽くないとオトリがバテちゃう。ハリは一本チラシでもいい」
「会長、オレの仕掛けを見てくれねえか?」
「見せてみな。これか? 水中糸がナイロンで〇・三じゃ太すぎてオトリも浮くだろ? 掛けた野鮎もまだ小さいから動きが鈍くなってヘバリが早くなる。ナイロンで〇・二、メタ線なら〇・〇八なら二十センチまではまず切れない」
「細すぎて、なんだか不安だなあ」
「関西の田村名人なんて、〇・〇三の極細を使うんだぞ」
「オレは完璧だ……今年は水中糸を張れば支点が頭の方に移動してオトリが抵抗なく自然に潜り、ゆるめれば泳ぐという首藤式ス-パ-ウエポン以上の新式仕掛けの改良型を会長に教わったから、釣果は飛躍的に伸びるのが分かってるからな」
「でも、鮎のいる場所に泳がせなきゃ、鮎は掛からんぞ」
「ま、それが問題なんだ」
「ところで……」
名鮎会副会長の永山総料理長が、福山を見た。
「福さんはアイディアマンだが、今年の新理論は何だね?」
周囲の視線が注ぐと、焼きとりをかじる福山が応じた。
「一つ目は、水中糸の摩擦係数と水中糸にかかる水圧の軽減、二つ目は水圧と水中糸の傾斜角の関係改善かな。とにかくオトリ鮎の負担を軽くして泳ぎをよくするこだ……」
「勿体ぶるな、三つ目は何だ……?」
「三つ目は、その理論の実践さ」
「毎年、理屈ばかりじゃねえか」
どっと笑い声が沸く。
「うるさい! これだから学のないヤツは相手にしたくないんだ」

 

4 三人の秘密

 

「会長、そろそろ行きましょうや」
福山が、待ちきれないのか信方に声をかけた。
「まだ暗いじゃないか?」
「夜明けまでには早いだろ?」
「さっきの屁理屈で、今年こそ少しは釣れよ」
「早いもんか。みんな、いい場所を確保したほうがいいぞ」
「どうだ、福さんの言う通りに、そろそろ川に入るか……」
「会長までがそう言うんじゃ、前夜祭はお開きだな」
後片付けをした仲間が支度をし、それぞれが思い思いの場所に散った。支度を終えた信方と福山、孝二の三人も、自分たちが最初の釣り場に決めてある上流の瀬肩の岩場に向かって歩いた。
そこには福山が、すでに養殖のオトリ鮎を三人分の六尾を用意したオトリ箱を、川の水に馴染ませるために流れに沈めてある。
三人はそこを通り越して、瀬脇の岩場に向かって歩いた。
川原はまだ暗かった。どうせ水温はまだ十五度以下だから、夜明けになっても水が冷たすぎて野鮎の活性はよくない。鮎が活動的になるのは水温十七度を越えたあたりからだから、陽が昇るまで待ったからでも遅くない。信方は、二人を誘って岸辺の岩に腰掛けた。
ここなら誰も来ない。
福山喜一は、北関東一帯の温泉の発掘や地質調査、工業水のための井戸水用地下穿孔、いわゆるボ-リング業だが、一級建築設計士の資格を持つだけに鮎釣りにも科学的で的確な理論を持ち、水流と鮎竿との負荷に関する研究や、各河川の石質と珪藻の分類などの研究については他の追随を許さない。ただ残念なことに川を読む経験や、鮎の個性に対応する技術が伴わないために、その専門的でマニアックな研究や理論が釣果に反映されないのが惜しまれる。
地質調査とボ-リング業の福山と、自動車関連機械の企画や製作する会社を二十五歳で独立して経営する信方とはウマが合う。
仕事でも設計や技術などの意見交換で協力することで、共通の話題をもつ二人が他の釣友とは違った距離にあることは、至極当然のことで周囲の誰もが認めていた。
凝り性、研究熱心、論理的思考という点も共通している。たしかに、その二人が車の中とか喫茶店とかで額を合わせてコソコソと小声で話し合っている姿を仲間たちに見られたら、妙な噂が立っても不思議ではない。妻の浩子は、鮎シ-ズン以外は定期的な夜のスキンシップで夫に異常がないのは知っているから気にもしないが、福山のことは妙に勘ぐったりする。
「あなた、福山さんて女性に興味ないのかしら?」
「さあ、釣り意外の話はしないからな……」
勘違いしてるな、と思っても信方には答えようがない。二人とも女性にモテるしマメなのだが口に出せない。それに、妻に勘違いされているうちは秘密も保たれる。
この日は、それに加えて孝二が参加していた。
三人は周囲に人も鮎もいない場所に移動して黎明近い河原の岩場に腰掛け、ポケットウイスキ-を口にしながら小声で、他人には絶対に聞かれたくない話を切り出した。このような密事は、流れの音に会話が消される岸辺が一番安全なのだ。
もしも、三人が密着するようにして真剣に語り始めた内容を、孝二は独身だが、他の二人は妻に聞かれたら間違いなく、離婚を迫られ多額の慰謝料を請求される。気が狂ったと思われるからだ。
信方が、周囲に人がいないのを確かめてから声をひそめた。
「福さん、いいか。これが孝二が必死で泳いで届けてくれた二枚目の絵地図だ。よく見てくれ……」
ポケットから出したポリ袋のチャックを開き、折り畳んだ古い紙片を引き出して手渡そうとすると、福山がそれをさえぎった。
「会長、以前、浄法寺屋敷を補修したときに働いてた大工が壁穴から見つけて隠し持ってた古絵図を孝二が買い叩いて三万円で手に入れた……あの話、覚えてますか?」
「孝二はそれをワシに十万円で売りつけたんだから覚えてるさ。どうせただの紙切れだろ?」
「とんでもない……あれは」と、孝二が口をとがらす。
「いいさ、済んだことだ。福さん、それがどうした?」
「あの絵図をオレにくれましたね?」
「冗談いうな、くれたんじゃない、預けただけだ」
「孝二は、それに味をしめて……工事が終わってからその大工をそそのかせてもう一度家老屋敷に忍び入らせたそうです。
その大工は、工事中に見つけた仏像を床下に隠してあったんで、それを持ち出して来て孝二に売りつけたんです。そこで、孝二は骨董屋に売ったが、その分け前で仲間割れしての刃傷沙汰で窃盗共犯と傷害罪のダブルで刑務所入り……」
「そこまでは聞いてるよ」
「ところが、その仏像の胎内から出たのが、あの日、川下りで孝二が会長に届けたこの絵地図です」
「孝二は福さんの車を降りてから、これを隠した場所まで行き、夜が明けてから約束通りにワシに届けた。そうだな?」
「そうです。福さんに、地図が見つかったら翌朝八時に那珂橋の上に届けろ、って言うんで余裕があると思ったのに、買収してた刑務官が気づかない間に新米の職員が警察に通報しやがって……もう、必死でしたよ。オレはとにかく藪の中に隠れて暗くなるのを待ったんだが、とにかくパトカ-のサイレンがうるさくて……あれで、警察犬でも出てたらアウトでした」
「それにしても、あの時の川流れには驚いたぞ」
「走るより、流された方が早いんです」
「約束を守っただけでも大したもんだ。なあ福さん」
「しかし、オレが車の中で渡した衣類に着替えるかと思ったのに。
カミソリも金も渡したんだし、きちんと身だしなみを整えてると思ったのに、なんで囚人服なんだ?」
「警察の手がまわったからです。捕まって衣類の出所を調べられたらヤバいから、あの着替えは隠しときました。とにかく、一晩だけでも遊んでと思ったのに、警察に通報されるなんて」
「気の毒だったな、シャバでいい思いできなくて……それにしても拘置期間だって延びただろうに、今日はよく出てこられたな?」
「福さんが出してくれたんです」
「どうやって?」
「例の穴堀りです」
「まさか、塀の下を掘ったなんてないだろうな?」
「そのまさかで、このシャツも福さんのです」
「孝二が我々に迷惑を掛けないと約束したから、昨夜、刑務所の東側の看守住宅裏の草むらに抜ける穴を塀の外から掘って、草をかぶせてあります。これで、買収した刑務官との約束通りに暗くなって孝二が戻れば誰にも文句は言われません。オレは夜中に穴を埋めに行くだけです。ま、それまでは孝二も久しぶりにゆっくりと鮎釣りを楽しんで、土産に何匹か持って帰れば喜ばれますからな」
「そんな……バレたら刑期が延びるし、福さんも逮捕されるぞ」
「道連れに、署長と刑務官四人ぐらいは収賄罪で懲戒免職です」
「模範囚が聞いてあきれるぞ」
「それより……孝二に足元を見られて払った十万円の絵図はそれほどの価値はないと会長が思ってるのは分かりました。で、今度は本物で解読済みだというこの絵地図、これには会長はいくら払ったんです?」
「これは一千万、半分の五百はこの前、面会に行った時に払い済みだ。孝二……原価はタダだったのか?」
「そうですが情報料と思ってください。その五百のうち四百万は刑務官に払い済みです。百万は予備として貯めてあります」
「あとの五百は?」
「原価もバレましたし、会長に任せます」
「よし、預かっておく。その金をどう使うんだ?」
孝二が恥ずかしそうに説明する。
「オレには結婚する気で付き合ってきた女がいるんです。黒田原の駅前のスナックで働いてるんですが……その女が妊娠したんで所帯を持とうというこで、その女の母親に挨拶に行ったんです。ところが、定職も持たない男なんかに大切な娘をやれるかだの、疵物にされたとか騒いで、凄い剣幕なんです。
しかも、これでオレも前科者になったから大変なんです。母親はますます怒って、娘の精神的苦痛を理由に訴えるという騒ぎになって慰謝料を払えっていうんです。で、とにかくその女に対してだけは、刑務所から出たら慰謝料として三百万円払うとの謝罪の手紙を出してあるんです。それで五百と言われたら払うつもりです」
「そうか、つくり話にしては単純すぎるから信じよう」
見ると、孝二がうつむいて涙ぐんでいる。
「いいんだ。ワシらは百万分の一の可能性を追って、その夢のために投資して、大げさに言えば人生を賭けてるんだ。なあ、福さんもそう思わんかね?」
「実はわたしも孝二に話は半信半疑だったんです。ふつうなら母親が危篤だとか、オヤジが死んだとか言うのに、女が孕んだ……インチキ絵地図に騙されたかな、とも思いましたよ。でも、どうせスポンサ-は会長だし……」
「おい、冗談じゃないぞ。オレだって大金を裏金でひねり出すには家宝の刀剣を質に入れたり、大変な苦労をしてるんだ。どうせ、どこを掘ったってビタ一文も出んのは分かってるんだがな」
「ところが……」
福山が懐中から何かをとり出した。手が震えている。
「なんだ?」
「驚かないで下さいよ。この黄金一枚、拾両大判です!」
「そんなもの、どこから借りてきた?」
信方の声にも、緊張感が出ている。
福山が拾両大判を膝の上に乗せ、キャップに巻いたヘッドライトの焦点を合わせると、黄金がまぶしく輝いた。

続く