ラ・セーヌ

ラ・セーヌ

   芦野 宏

 セーヌは生きている
とだれかが云った
穏やかな流れの中に
人のこころを誘う夢が
あるからだろうか
昔からここに来て
ひそかに泣いた人
恋人と未来を
語り合った人たち
この河に身を投げた
女もあるという

それでもセーヌは
その流れを変えない
雪どけの春が来てて
水かさが
ほんの少しふえても
マロニエの白い花が
たくさん水面に浮かんでも