ハネムーン・エピソード-2

幸福を売る男

芦野 宏

Ⅲ 新たな旅立ち

1、新婚旅行で三たびのパリ

ハネムーン・エピソード-2

 また、前大蔵大臣で当時の総理大臣・池田勇人氏も祝福のメッセージと記念の陶器を届けてく
ださり、今も大切にしている。駆けつけてくださったNHKの藤倉修一、高橋圭三の両アナウンサーや、藤原あきさん、佐藤美子さんほか、芸能界名士からも祝辞をいただき、東芝レコードからは野上彰先生作詩の「祝婚歌」が贈られ、作曲の大中恩氏が指揮して東京放送合唱団がこれを歌って祝福してくださった。高さ二メートルのウエディング・ケーキの前で、私は「幸
福を売る男」を歌って、皆様にお礼の挨拶をした。
すべてが夢のように輝き、五月の太陽がキラキラ光っていた。
エールフランスが、マンチェスター航路の開通を兼ねて、私たち二人に往復航空券をプレゼントしてくれたので、新婚旅行はロンドン、パリ、ジュネーヴとまわった。
新婚生活はロンドンのハイドパークに面したドーチェスター・ホテルから始まった。
ここで私たちは初めて夫婦げんかをした。婚約期間が半年以上もあったのに、デートはいつ見られていたり、第三者が介入していて、二人きりの付き合いはなかった。
外国に来て初めて二人になると、良いことも悪いことも目につき、鼻についてくる。
私は末で甘やかされて育ち、歌手になってからは付き人やファンたちに囲まれて異常にわがま大事になっていた。妻はたった一人の兄が生まれてまもなく亡くなった一人娘で、大事にられたお嬢さんである。ただ、彼女の場合は四年間、日本女子大学の寮生活をして親元を離れた経験があるのでよかったと思う。
じっは、私の長姉が日本女子大学で講師をしていて、真面目で評判の学生を私に紹介したことから、私たちのお付き合いが始まった。