音楽を教わること、教えること-4

 幸福を売る男
     芦野 宏

 Ⅲ 新たな旅立ち

5、パリ・コンサートをめぐつて
 
 エピローグ 「日本シャンソン館」 に託す夢

 音楽を教わること、教えること-4

 教えることと教わること、どちらが難しいことだろうか。中山先生は、私が週に一回お宅に伺ってレッスンを受けるとき、物足りないくらいなにも注意してくださらない。私はもっと悪いところ、良いところを指摘して、どんどん注意してもらいたくてウズウズしていた。もちろん質問に対しては答えてくださるのだが、いつも物足りなさを残して帰ったものである。
 五〇年ぶりかに、先生とお話しする機会があった。そのとき先生から言われた。「芦野君、ばくは君になにも注意しなかっただろ」。すかさず私は答えた。「とても物足りなく…思っていたのです」。先生は笑いながら、初めてあのころのことを話してくださった。
「君はそのままのほううがよいと思ったから、なにも注意しなかった。このままのほうが伸びると思ったのだ」。なるほど、こんな教え方もあるのだと初めてわかったような気がした。
今でも中山先生を歌手として、教育者としてこのうえなく敬愛している私は、今「日本シャンソン館」で生徒に教えるとき、その教育理念みたいなものが私の心の中に生き続けている。
 ソプラノの佐藤しのぶさんとはテレビ番組で共演したり、先生のお弟子さんの会でもよくお目にかかるが、彼女がもって生まれた音楽性を、そのままに伸ばされたのは中山空のおかげではないかと思っている。佐藤さんのようにスター性のある方は別としても、先生の門†生はそれぞれの個性を伸ばして生き生きと活躍されている姿を見るにつけ、先生の考え方が間違っていなかったことを確認する思いである。
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日本シャンソン館・ライブスケジュール
しばらく中止させていただきます。
再開が決定しましたらご案内いたします。
日本シャンソン館 館長・羽鳥功二

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