NHK『紅白歌合戦』連続出場-3

 

幸福を売る男

       芦野 宏

Ⅱ 夢のような歌ひとすじ

1、ポピュラーの世界へ

 

マネージャーや付き人は用事のないかぎり廊下に出ていて、声がかからなければ部屋に入ってこない。なにしろ今をときめく日本の大スターが一堂に集まるのだから、たいへんなのである。いつもテレビでしか見たことのないスターたちを目の当たりにすると、意外なことが発見される。もっと大きな方かと思っていたのに、三橋美智也さん、橋幸夫さん、三波春夫さんた
ちは意外と小柄なのでびっくりした。和田アキ子さんや小林幸子さんはテレビで見ても背が高いことがわかるが、美空ひばりさんは小柄である。ひばりさんは黙っているときは、お高く止まっているようで取っつきにくいが、一度喋りだすと、まったく気さくな、気のおけないお人柄が見えてくる。
紅白のとき、ほかのショーと違うことは、本番を終わった歌手たちが動員されて応援団にまわされることである。これはその時によって違うが、必ずなにかさせられるから覚悟していなければならない。私がシャンソン界から一〇年連続で出演していたころを思い出しながら、今の紅白をお茶の間で見ていると、根本的にはその意図するところは変わっていないようである。
年に一度のお祭り騒ぎということであろう。紅白が終わって帰りの車の中で除夜の鐘を聴き、家に帰って温かいお風呂に入り、ホッとしたあの気持ちを今でも昨日のことのように思い出すのである。
昭和三十八年(一九六三) に出演したときの映像がNHKに保存されていて、再放映もされ
たが、当時お若かったクレージーキャッツの谷啓さんが子供役となり、私の歌う「パパと踊ろ
うよ」 のなかでおもしろおかしくお相手をしてくださっている。これは日本シャンソン館のビ
デオルームで上映されている『声野宏・シャンソンと共に歩む』のなかにも収録され、どなたにも見ていただけるようになっている。                      、