石井音楽事務所時代とその前後-6

 幸福を売る男

        芦野 宏

 Ⅲ 新たな旅立ち

4 石井音楽事務所時代とその前後-6

 「歌の明治百年史」リサイタル-4

 昭和芋八年(享八三)、三〇周年記念のりサイタルには、パリ在住の早乙女玲子さんから紹介され、私がしばらくフランス語を教わっていたパリ帰りの青年・藤田宜永さんの訳による「黒い瞳ナタリー」を歌い、予想外の反響を呼んだ。藤田さんはのちに作家として成功し、『鋼鉄の騎士』で第四八回日本推理作家協会賃を受賞している。
 早乙女玲子さんとの最初の出会いは、一枚の1Pレコードを通してだった。私がデビューした翌年、昭和二十九年ごろ、市ヶ谷の私の家を訪ねてくれた二人のお嬢さんが届けてくれたものは、当時絶対入手できなかったシャンソンの1P盤『ティノ・ロッシ名曲集』であった。私のラジオを聴いてファン第一号を名乗り出た方である。それから長いご無沙汰をしているうち、彼女がエールフランスに勤めていることを知った。パリで生活されてから長いこと会うこともなかったが、日仏友好のコンサートをしたとき久しぶりにお会いした。
 彼女からのプレゼントは、フリオ・イグレシアスの歌の入ったカセットテープであった。
 そのなかから私が選んだ「人生に乾杯」や「黒い瞳のナタリー」は、自分でも納得するほど私にピッタリの曲で、古くから私の個性を知っておられる五月女さんには感謝している。
 平成十年(一九九八)五月十五日、日仏親善のコンサートをパリ日本文化会館において行うことになったとき、彼女はまた私に数曲プレゼントしてくれた。そのなかの一曲は意外な曲で、中南米の革命家チェ・ゲバラの没後三〇年を記念して作られた曲であった。パリで大流行しているメロディーがとても新鮮であり、さっそく日本に持ち帰り尾中美千絵さんの訳詞で歌うことにした。また、軽快な曲は、新進のアン・あんどうさんに訳詞をお願いしている。

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止となりました
2020年7月4日(土)・5日(日)
シャンソンの祭典
第58回 パリ祭 
(NHKホール)
(裏面) ※中止となりました
時間:16時15分開場 17時00分開演
会場:NHKホール
主催:パリ祭実行委員会、一般社団法人 日本シャンソン協会
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
公益財団法人 日仏会館