「レジュメ」-5

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特別寄稿第2弾

講演「いま、なぜ田中角栄なのか」-7

高尾義彦
=「人生八馨」一六年秋季号・第八巻掲載から抜粋

「レジュメ」-5

その後、自宅にお仕立券付のスーツの生地、英国製の高価そうな生地が送られてきたことがありました。このときはさすがに国際興業にそのまま持参して返そうとしましたが、小佐野さんは受け取ってくれない。仕方なく、小佐野さんの誕生日に蘭の花を届けてつじつまを合わせましたが、こうしたプレゼントを受け取るかどうかで、自分の敵か味方かを区別する手法です。その後は距離を置くようになつて、小佐野さんは裁判の途中で亡くなりましたが、盟友のやり方は、元首相と共通する手口、と感じました。
ここでひとつ、田中元首相を評価すべきと私が考えていることを紹介します。
昭和史を研究している評論家の保阪正康さんが著書 「田中角栄と安倍晋三 昭和史でわかる『劣化ニッポン』の正体」で、田中元首相と比べて、安倍首相を批判しています。元首相の言葉として「戦争を知っている世代が社会の中核にある間はいいが、戦争を知らない世代ばかりになると、日本は怖いことになる」と語っていたことを、レジュメに書きましたので、ご覧ください。
戦争を知らない世代が、政治の中心を占める時代がいま、やってきている。田中元首相は自分も徴兵された体験や占領当時に朝鮮で仕事をした経験などから、戦争だけは絶対にしてはならない、と強く主張していた。保阪さんは、安倍さん世代にはそのような意識が薄いのでは、と懸念を表明していますが、私も同感です。
保阪さんはこの著書で、天皇・皇后両陛下が第二次大戦で多数の犠牲が出た場所へ慰霊の旅を続けていることの意味を分析しています。田中ブームとは直接関係はありませんが、田中角栄という政治家から、いま我々が学ぶとしたら、「平和」の問題は大きなテーマだと思います。日中国交回復の業績も、その意味で改めて見直すべきではないかと考えます。
先ほど話したNHKの番組では、トライスター売り込みを中心に事件の構図が出来上がったロッキード事件について、実は対潜哨戒機P3Cの売り込みが主要な狙いだつたのでは、という筋書きが展開されました。我々も捜査開始当初からP3C疑惑を重視して、ロ
ッキード社の秘密代理人、児玉誉士夫に焦を当てて取材しましたが、病床にあり途中で亡くなつて、この問題は疑惑のままに終わっています。今後、新しい資料や証言が出てくることもあり関心を持ち続けたいと思います。

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寿命延びる 母が生まれし 日のニュース

母の誕生日は大正一二年八月一日。一〇年ほど前、八〇歳で逝った。日本人男性の平均寿命が初めてその年齢に達した、と今朝の新聞に。父の享年九四を考えれば、自分が八〇を超えて生きることは想定内。