住宅ストレス-1

対人、孤独、休日、読書、兼職、家庭、住宅

「長寿の秘訣の第一は、ストレスを溜めないことです」
ストレス解消、病気知らずで楽しく長寿!
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花見正樹のストレス・エッセイ

狭き家に家族多きは福来たり繁栄疑いなし

家族会議の決定!

「夫の様子がおかしいんですが……」
電話相談のベルが鳴る。
三十八歳の主婦Bさん、夫は四十六歳、仮にA氏とする。子供は二人で高一男子、中三女子各一名、A氏の職業は東京都庁勤務で中間管理職とのこと。
三DKの公務員住宅(官舎ともいう)が手狭になったこともあり、母と子の発案で転居希望、新築希望から渋るご主人を説き伏せて建売住宅購入が家族会議の決定事項となる。始め総員、つぎに夫婦、A氏の独断で購入物件決定者はA氏となるに及んで、A氏の日常生活の挙動に不安定なストレス過多現象が起りつつあるという。       -
A氏はコチコチ堅物で生まじめ人間、汚職や柚の下など役得は全くなし、何のために役人をしているかと思うはどの働き蜂とのことである。
妻君としては、夕飯の話題にためらいはあったが、夫の同僚がつぎつぎと家を建て、越してゆくのを横目で眺めるのが口惜しくてつい「家を建てましょ」と口に出したのがそもそもの発端とか。
A氏の生活信条は 「堅実」 あるのみ。見合いから交際に移行したときも次のようなことを心に決めた。
① デートの日時は一カ月前にきめ、必ず守る。
② デートの予算は上限をきめ必ず幾らか残す。
③ ムグロ、ムダ金、ムダな精力は使わない。
官舎居住者でも古株組に入るA氏にとって持ち家購入は当然、人生設計図に折り込み済みである。
高校、大学と予定のコースを経ての公務員、住宅予算も収入に見合せて計算しっくしていた。
新築が数年早まっただけで彼にとっての人生設計は大幅に狂い出す。
学校教育で得た知識で生活を築いたA氏にとって、生活の知恵を用いて日常生活の応用問題を解くなど至址難の技となる。
同期入庁組では出世がもっとも遅れているがそれも計仙昇済み、盆暮れの義理や社内交際よりは貯蓄を選び、将来の安全を選ぶのがAさんの健全な生き方なのだ。
貯金も当然のこと、家を買う頭金には不自由しない。ぜいたくもせず節約し貯金第一主義でマイホームに備えてきた。
妻のBさんにとっても、そろそろ家を建てるチャンスに思えていた。
ビル新築ラッシュで都市部は地価が高騰しているが郊外はここ数年開発が進んでいる割には 価格が安定している。
今まで家具備品の占拠率の高まるままに任せていた官舎の狭苦しい居住空間から開放される、と考えただけで心が晴れやかになる。近隣との遠慮しがちな交際ともおさらば、新天地でのび のびと新たなスタート、夫のAさんが、しばし熟考の末「まだ早すぎるが」 といいながらも「そうしようか」と答えた瞬間から一家の「転居作戦」が始まった。日曜日はジョギングと自宅持ち込み仕事とテレビでゴロ寝というAさんの生活が一変した。
毎週、住宅情報誌を買い漁り、深夜まで地図と首っぴき、休日の予定はすべて各地で売出し中の土地と建売住宅見学に埋めつくされる。
Aさんの予定では、金利を考慮し、購入金額の半分以上を用意してからが本筋だったが家族
全日貝が新居移転を望んでいるとあればやむを得ない。よりよい条件の新居を探し求めるだけだ。