対人ストレス-1

ストレス解消、病気知らずで楽しく長寿!

花見正樹のストレス・エッセイ

 

ストレス解消、病気知らずで楽しく長寿!

花見正樹のストレス・エッセイ

対人ストレス-1

”対人恐怖症で行方不明〃

出勤途上、満員電車の吊り皮にぶら下がって窓外の景色を眺めながら、(このまま、会社へなど行かずにどこか遠くの知らない土地へでも行けたらなあ……) と、考えたことのある人は多いと思う。で、そんなことを考えるときはまず、どんな理由があるにせよ人間嫌いになっているのは間違いない。
顔を見るのも嫌な上司がいる、とか、ネチネチと小理屈をいう部下がいる、あるいは言い寄って口説こうとして、はっペたを叩かれた基丁句、人前で大恥をかかされたOLがいる、とか……。

さて、実話風例えばの話だが、ある朝、千葉県の首都圏やや外れ、田園風景の村から総武線などにゆられて東京駅、そこではき出されたとたん、都会のスモッグの臭い、そこで、すでに勤労意欲を失っている。
会社は東京駅ビル側、大手町のビル街にある。
家を出るとき暗緑色だった気分が、電車にゆられて灰色に変化、東京駅のホームにおり立ったときは虚ろな大脳、もつれた足元、やつれた表情、ふらふらと階段を昇降している内に、いつの間にか湘南電車の窓ぎわ族となっている不思議。
 品川を過ぎて車内検札があったりして、一応大船あたりまでのチケットにして、その辺りでジクジクと心が痛み、(今日は、凸凹商事のクレームをなんとかしなければならない日だったんだ。俺がいないと多分、イヤミな上司が腹の中を煮えくり返しながらムキになって相手と怒鳴り合うに違いない。
ああ、そのツケはそっくり明日……)、そう思ったとたん、心臓ドキドキ、顔面蒼白、窓外を走る建物や街並に爆弾でも投げこみたい気分になるか、窓から思いきってとび降りたい衝動にかられる、こともある。
多摩川の鉄橋を渡り、いよいよ神奈川県、なにやら胸のつかえがおり、肩の緊張がほぐれたような気になる。
車窓の景色に緑が多くなる頃は、ほんの少しだけ気分が晴れやかになる。
当然ながら、窓からとび降りることなど考えなくなり、会社のことも気にならず、上司など念頭にも浮かばない。
ふと、自分より後から乗って隣りの座席に座った若い女性が居眠りをしながら肩にもたれかかる肌のぬくもりを感じ、柔らかくそよぐ長い黒髪のくすぐりや、オピニウムの甘い香りなどに眠っていた青春の血を騒がせたりする。        男性としての機能が突如目覚め、それがまた別のストレになってアドレナリンを放出させ、刺激となって血糖値を高め、
また、胸の鼓動が早鐘を打ちはじめる。
それとなく腕を寄せてみる。意外に冷たい肌をしているな、と思ったとたんに、娘がバッと身体を離し、目を見開き、冷たい視線で男を見る。その目は明らかに「中年男被害妄想ストレス」か「中年男=痴漢予備軍発想ストレス」であり、当然ながら敵意に満ちている。
で、その娘のただごとならぬ挙動を見た周囲の乗客は、何事ならんと立ち上がって男を眺め、娘に睨まれた中年男は大悲哀を、弱りかかった奥歯にかみしめてじ一っと屈辱に耐えて瞑目し、つぎの駅で降りる算段をしていたりする。
実に他愛ないものだが、もはや、この男から女性恐怖症、対人ストレスはぬぐい難いものとなってのしかかっているはず。しかも、そのまま行方不明になったりして‥…・。ああ恐い。

これが対人ストレスに縁のない、至極健康健全な普通の男だとすると、まず間違いなく「どちらまで?」とか、話しかけて、旅のつれづれを楽しむゆとりもあるのだが、対人ストレスが高まっているときは、すなおに言葉が出ないもの、対人ストレスの傾向がある人は、異性に対しての言動もオドオドとなり、まず正面からのアタックが功を奏することもない。
つづく

”対人恐怖症で行方不明〃

出勤途上、満員電車の吊り皮にぶら下がって窓外の景色を眺めながら、(このまま、会社へなど行かずにどこか遠くの知らない土地へでも行けたらなあ……) と、考えたことのある人は多いと思う。で、そんなことを考えるときはまず、どんな理由があるにせよ人間嫌いになっているのは間違いない。
顔を見るのも嫌な上司がいる、とか、ネチネチと小理屈をいう部下がいる、あるいは言い寄って口説こうとして、はっペたを叩かれた基丁句、人前で大恥をかかされたOLがいる、とか……。

さて、実話風例えばの話だが、ある朝、千葉県の首都圏やや外れ、田園風景の村から総武線などにゆられて東京駅、そこではき出されたとたん、都会のスモッグの臭い、そこで、すでに勤労意欲を失っている。
会社は東京駅ビル側、大手町のビル街にある。
家を出るとき暗緑色だった気分が、電車にゆられて灰色に変化、東京駅のホームにおり立ったときは虚ろな大脳、もつれた足元、やつれた表情、ふらふらと階段を昇降している内に、いつの間にか湘南電車の窓ぎわ族となっている不思議。
品川を過ぎて車内検札があったりして、一応大船あたりまでのチケットにして、その辺りでジクジクと心が痛み、(今日は、凸凹商事のクレームをなんとかしなければならない日だったんだ。俺がいないと多分、イヤミな上司が腹の中を煮えくり返しながらムキになって相手と怒鳴り合うに違いない。
ああ、そのツケはそっくり明日……)、そう思ったとたん、心臓ドキドキ、顔面蒼白、窓外を走る建物や街並に爆弾でも投げこみたい気分になるか、窓から思いきってとび降りたい衝動にかられる、こともある。
多摩川の鉄橋を渡り、いよいよ神奈川県、なにやら胸のつかえがおり、肩の緊張がほぐれたような気になる。
車窓の景色に緑が多くなる頃は、ほんの少しだけ気分が晴れやかになる。
当然ながら、窓からとび降りることなど考えなくなり、会社のことも気にならず、上司など念頭にも浮かばない。
ふと、自分より後から乗って隣りの座席に座った若い女性が居眠りをしながら肩にもたれかかる肌のぬくもりを感じ、柔らかくそよぐ長い黒髪のくすぐりや、オピニウムの甘い香りなどに眠っていた青春の血を騒がせたりする。        男性としての機能が突如目覚め、それがまた別のストレになってアドレナリンを放出させ、刺激となって血糖値を高め、
また、胸の鼓動が早鐘を打ちはじめる。
それとなく腕を寄せてみる。意外に冷たい肌をしているな、と思ったとたんに、娘がバッと身体を離し、目を見開き、冷たい視線で男を見る。その目は明らかに「中年男被害妄想ストレス」か「中年男=痴漢予備軍発想ストレス」であり、当然ながら敵意に満ちている。
で、その娘のただごとならぬ挙動を見た周囲の乗客は、何事ならんと立ち上がって男を眺め、娘に睨まれた中年男は大悲哀を、弱りかかった奥歯にかみしめてじ一っと屈辱に耐えて瞑目し、つぎの駅で降りる算段をしていたりする。
実に他愛ないものだが、もはや、この男から女性恐怖症、対人ストレスはぬぐい難いものとなってのしかかっているはず。しかも、そのまま行方不明になったりして‥…・。ああ恐い。

これが対人ストレスに縁のない、至極健康健全な普通の男だとすると、まず間違いなく「どちらまで?」とか、話しかけて、旅のつれづれを楽しむゆとりもあるのだが、対人ストレスが高まっているときは、すなおに言葉が出ないもの、対人ストレスの傾向がある人は、異性に対しての言動もオドオドとなり、まず正面からのアタックが功を奏することもない。
つづく