嫌職ストレス-2

「長寿の秘訣の第一は、ストレスを溜めないことです」
ストレス解消、病気知らずで楽しく長寿!
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花見正樹のストレス・エッセイ

嫌職ストレス-2

栄転で転勤、大出世?-2

 出向期間は三年、場所はサンフランシスコにある支店、同期入社メンバーではたった一人の大抜擢にA君が内心欣喜雀躍したであろうことは想像に難くない。
辞令を手にしたA君は、仲間のお祝い飲み会も早々に、一目散に喜び勇んで珍しくも早めの帰宅、笑顔で愛妻にご報告。共稼ぎではあるが、二人で生活するぐらいは昇給分と出張手当で何とかなる、と妻が喜びそうなセリフも口に出す。
ところが、その熱くなった心に妻からザブリと冷水を浴びせられたのだ。
最愛、と思っていた妻が、なんと冷酷な言葉でA君に告げたのだ。
「一緒に行けというなら、別れます」
英語もベラベラ、海外留学の体験もある妻が、である。結婚三年、子供はまだいない。かつては海外志向だった妻なのに。そこで理由を質すと、最初は会社を辞めたくない、と言う。仕事なら海外の日系企業でいくらでもあるなどと説得、小一時間論戦が続いた後、妻がついに開き直った。
「ボーイフレンドに逢えなくなるからです」
これでもうエリートA君は、頭をハンマーで殴られ、心は氷漬け、体はまっ暗闇の深い井戸に逆さ吊りにされてロープを切られたような状況に陥って、怒りの感情さえ萎えてしまった。これはまさしく職務上の自信すら喪失させるカウンターパンチ、これは効く。
まさか、妻が自分以外の男と交際していようなどとは思いもよらなかっただけにショックは大きい。夫婦生活も円満、彼女は夜も積極的で満ち足りているように思っていただけに何が不満だったのかもわからない。
一度、離婚を決意した女は強い。
「あなたは下手だから・・・」と呟き、妻は立ち上って黙々と仕事を始めた。
A君は、自分の出張の支度かと思って見ていると、なんと妻は自分の荷物をまとめ始めているではないか。