第十章、武士道の教育

武士道 本

新渡戸稲造著、桜井桜村訳、幅雅臣装丁、えむ出版発刊、復刻版・本体5千円。
お問い合わせ。ご注文は”えむ出版企画”<mbook@cl.cilas.net>、へ。

 武士道を考えるー13
花見 正樹

 第十章、武士道の教育

 現代の教育では、大学の教育学部を卒業した学生が職業教師になって、教科書に沿ってマニュアル通りに詰め込み教育をしますので、教師の人格や人間性が問われることもあく、生徒の人間性や品格の形成についての指導要綱はありません。最近ではパソコン教育ですから、理数系には強くなっても、難しい字などは読めない書けない、用件の伝達もメールで済ますから手紙も書けない。NET社会の弊害もあって、人間関係が希薄で会話力が弱く、主義主張がはっきりしない若者が増えています。その上、気力や精神面を鍛える項目も、現代の義務教育にはありません。
武士道の教育の主眼は、品格の育成です。正直で義に厚い豊かな人間性を形成するのが教育の目的で、単なる知識では誰も評価せず、必要とされたのは知識に精神的美学をまぶした賢者の「叡智」です。
武士道の学問は、論語など文字を読み文字を書き、それについて論じ、道徳と名誉を重んじ、死を恐れない人間こそが武士だと教えられて育ちます。したがって、弁舌の巧みさや頭脳の良し悪し以上に、人物の品性が重要視されていたことになります。
それと同時に、武士の師弟の養育に携わる指導者もまた清廉で、報酬には拘らず、授業料の代わりに米や野菜などでも良く、手ぶらでも何も言われず、教育は平等に受けられました。
武士の教育には、武術として剣術、弓術、柔術、馬術、水練、戦略兵術、書道、道徳、儒学、歴史などで、幕末には弓術に替わって砲術が入ってきます。ところが、ここでお気づきのように、武士の教育の正課には算術がありません。武士道では、金銭による損得感情を忌み嫌い清貧こそ武士の美徳とされました。武士は貧しい生活にあっても高貴な精神で、貧しさにも耐え抜くように鍛錬を重ね、富みに対する欲望を抑えるだけの自制心を持つようになります。
(注・この考え方から、武士の世界において金銭の扱いは下級武士の仕事とされています。)