第十四章 武士道における婦人の理想像 

武士道1

新渡戸稲造著、桜井桜村訳、幅雅臣装丁、えむ出版発刊、復刻版・本体5千円。
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 武士道を考えるー17

 第十四章 武士道における婦人の理想像

 武士道は男のための道ですが、その武士が求めた女性の理想像とは、家庭的であると同時に、男と同様に勇敢で、決して敵対する相手には負けない勇敢さを秘めたものであらねばなりませんでした。
とくに、武家の若い娘は感情を抑制し、神経を鍛え上げ、薙刀を操って自分を守るために武芸の鍛錬を積まねばならなりません。
武家の少女達は成年に達すると「懐剣」を与えられます。その懐剣は、自分達を襲う者を突き刺すか、あるいは自分自身を突き刺すか、どちらにも使えるように教育されました。
そして、それを用いた場合の多くの例では、その、懐剣は後者のため、即ち自刃のために用いられるケースが殆どです。
昔は、女性といえども自害の方法を知らないことは恥とされていました。死の苦しみがどんなに耐え難く苦痛に満ちたものであっても、死後の姿に乱れを見せないために両膝を帯紐でしっかりと結ぶことなども教育されます。
男性が忠と義を大切に主君と国のために尽忠報告の精神で身を捨てる覚悟であると同様に、女性は自分を犠牲にしても夫や家、家族のために尽すことが名誉であり美徳とされています。
武士階級の女性の地位が低かったわけではありません。女性が男性に隷属していなかったことは、男性が封建的な君主の奴隷ではなかったことと同様で、家庭においては、封建時代の女性の地位は男性に比してさほど低くはなかったのです。ただし、社会的立場になると、例外を除いて、女性は戦場や政治などに参加しませんので、存在が薄くなるのは仕方ありません。そのように、社会手には重んじられない女性が、妻として母としての家庭での存在になると、立場が一変して多くの場合、夫は妻に頭があがらなかったのです。その上、夫が出陣して家を留守にする時は、女性が家の中の全てを仕切り、いざ戦いの時は家の防備も女性が立派に取り仕切る・・・これが女性の理想像だったのです。