第十六章 武士道の命脈

武士道1

新渡戸稲造著、桜井桜村訳、幅雅臣装丁、えむ出版発刊、復刻版・本体5千円。
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武士道を考えるー18

 第十六章 武士道の命脈

 武士は士農工商の中で一般庶民を超えた高い位置に置かれていました。かつて、世界のどの国でもそうであったように、日本も厳然とした階級制度によってはっきりした身分社会が存在していて、武士は最上位に位置づけられていたのです。
江戸時代の日本全体の総人口における武士の割合は、そうて多くはありませんが武士階級が生み出した武士道という意味を持つ道徳心は、その他の農工商に属する人々にも大きな影響を与えています。
新渡戸稲造は、源義経とその忠実な部下であった武蔵坊弁慶の物語を例に出して、身分の差なく子供たちは忠節の物語に傾聴し、勇敢な曾我兄弟の敵討物語に感動し、さらに、戦国時代に活躍した織田信長や豊臣秀吉や、幼い子供でも夢中になる桃太郎の鬼が島征伐のおとぎ話など、誰もが夢中で聞いた大衆向けの娯楽や教育に登場する人物の多くは武士であることを強調しています。
武士は自ら道徳の規範を定めると同時に、自らがそれを守って模範を示すことで多くの人々を道徳的に導いたとも言えます。
武士道の思想は、「花は桜木、人は武士」であらわされるように別のい方では「大和魂」そのものです。
日本民族全てが持っている固有の美的感覚によると、「桜」こそ「大和魂」の象徴のようにも映ります。桜の花は、日本人が昔から好んだ花で、これからも変わることはないでしょう。西洋人はバラを愛し、日本人は桜が好き・・・これは本能かもしれません。
バラは美しさと甘美さの裏にトゲを隠していて、散ることなく茎についたまま枯れ果ててゆきます。この、死を恐れるかのように生に執着する姿は、どうも日本人にはすっきりしない印象を持たれるようです。
その点、桜の花の散り際の美しさ、ほのかな香り、淡い色合いなど、桜が育った風土に武士道が育まれたのも無理のないことなのです。と、新渡戸稲造先生は述べています。