幸福の四葉のクローバー

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四葉のクローバーといえば幸福の象徴だ。

誰しも小さい時は四葉のクローバーを探したことがあるのではないだろうか。なかなか見つけられず日が暮れるまで探したり。あるいは見つけた友達を羨ましがったり。

大体は見つかることなく、あたり一帯のシロツメクサを踏み付けて終わるのだが。

私自身も見つけたことは一回か二回ほどしかない。見つけたからといって押し花にしたり挟んでラミネートをして本の栞にしたりとマメに大事にとっておいたことは一度もない。

そこまで思い入れが無かったといえばそれまでだが、マメでも無い私が四葉のクローバーに対して思いを馳せることはなかった。

あの日までは。

中学生の頃まで遡る。

その日は1人で下校していた。夕方の4時頃だったか、まだ明るかったのを覚えている。

いつもの道を歩いていると、少し前を歩く同じ学校の生徒が目に入った。

その生徒は、道傍にいた誰かに呼び止められ、少し話をして、足早に去って行った。

少し、変だな、と思った。

なぜなら足早に去った生徒は、すでに私からは見えなくなるほど走り去っていたからだ。

私は怪訝に思いながらも、帰宅するためにはこの道を歩くしか無い。

道傍には見知らぬオジサンがいたが、歩いてくる私に気がつくと、

「ちょっと」

と、私を呼び止め、満面の笑みで近づいて来た。

私の中の警戒スイッチはオンになった。

あれ、知り合いか?いや、もしかしたら私が覚えていないだけで、小さい頃に会っていたのかもしれない、いや、それなら、先ほどの生徒は何なんだと色々と考えを巡らせたが、考えれば考えるほど、笑顔で近づいてくるのは、やっぱり見たこともないオジサンだった。

もうこれは避けられない。

やばかったら、逃げよう。

そんなことを考えたところで、近づいてきたオジサンが口を開いた。

「これを持っていると幸せになれるからね」

と、私に向かって手を差し出してきた。

視点をオジサンの顔から、手の方へ向けると、オジサンの手には今まで見たこともないような大きさの四葉のクローバーが握りしめられていた。

拳で握っても、茎の部分が優にはみ出るくらいの大きさだ。

驚いて声を出すのも忘れるほどだった。

私は戸惑いつつもオジサンから四葉のクローバーを受け取った。

「ありがとうございます」

と、早口で一礼して、足早にその場を立ち去ったのだった。

クルクルとクローバーを片手に転がしながら歩いて頭を整理しながらテクテク歩いた。

振り返るとオジサンはしゃがんで、またクローバーを探しているようだった。

おそらく私の前を歩いていた生徒も、オジサンからクローバーを貰ったのだろう。

ふと気づくと足元にクローバーが落ちていた。さっきの人は、こんなに早く捨てたんだ、と驚いた。

オジサンには悪いが少し気味が悪かったので、私もクローバーを捨てようと思った。

ただ、オジサンの言葉を思い出して、その場にポイとは捨てられなかった。

5分くらい片手に持ったまま歩いて、近くのフェンスにクローバーをくくり付け、そのまま家に帰ったのだった。

今思えば、オジサンがくれた四葉のクローバーは本当に幸せになれるホンモノだったのかもしれない。

だってあんなに大きな四葉のクローバーなんて今までも見たことがないし、これから先も見ることはないだろうから。

もしあのクローバーを家に持ち帰って

それこそ本の栞なんかにしたりして取っておいたら、今頃驚くような幸せが来てたりして。

四葉のクローバーと聞くと、私はまずこの出来事を思い出すのであった。