カフェ・ド・ワカバ 8

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「ありがとうございましたあ、またきてね」

チハルが帰ったあと、ワカバはぽつりぽつりと話し始めた。

「そうよねぇ、この時期の子達の専らのお悩みはこういう人間関係よね。

世界はもっともっと広いのに、狭い狭い学校の中の悩みでいっぱいいっぱいになってしまう。彼女達の世界は、家か、学校か、その二つしかないから」

まあ、サチオさんの昔話が聞けるなんて思わなかったけどね、とホクホクした顔でワカバは微笑んでいた。

「でも、あのチョコ渡したっきりで何も解決になってないじゃないの。もっとこう、アドバイスとか、色々欲しかったんじゃないの?あの子、えーっとチハルちゃんは」

ワカバは、そうねえ、、、と呟くと、

うとうとこっくりこっくり舟を漕ぎ始めた。

「ああいけない、時間切れだ」

泰葉はふふふと噴き出すと、この店の神様にブランケットをそっとかけてやった。

 

時刻は14時半を過ぎた頃だろうか。

泰葉が店の前を掃除していると近所の小学校のチャイムが鳴った。小学生になったばかりの子たちの声が遠くの方から聞こえてくる。

もうこんな時間か。伸びをすると固まった腰が悲鳴をあげた。元々腰痛持ちだったが、ここ数年でまた悪化した。原因というものも自分では思い当たらないもので、これが歳をとるってことか、と生命力に満ち溢れ、跳ね回りながら下校する小学生達をぼんやり眺めながら考えた。

腰のストレッチをしながら体を動かしているうちに、なんだか楽しくなってきた。

手に持ったホウキはさながらゴルファーのドライバーか。

両腕にもって、肩や腰から動かすようにゆっくりと降ると、爽快な音とともに凝り固まった腰がほぐれるような感覚がした。

『ナイスショット!』

突然の声にビクッとして振り向くと、徐々に近づいてくる人影が。

丁度逆光になっているものだから目を細めながら見つめると、見慣れた顔がそこにはあった。

「あぁ〜、マルちゃん!」

「あはは、やすちゃん、暇だからってちょっと豪快すぎやしないかい?」

そう言って近づいてきたのはマルちゃんこと、丸山フトシ。近所に住む常連の好々爺だ。

「あちゃー、見つかったか。」

バツが悪そうに泰葉は舌を出した。