カフェ・ド・ワカバ 6

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「で、結局その子は受かったわけ?」

泰葉がみかんを剥きながら尋ねた。

「勿論。この話のすごいところはここからです。」

チハルは若葉から貰ったチョコをすごいスピードで食べている。この子は結構甘党のようだ。

試験当日、試験場につき最後のチェックで参考書を開いていた青年は、本の間に猫の毛が挟まっているのに気づいた。

取ろうと思ったが静電気でなかなか取れない。

取れた!と思ったがまた違うページにフワフワと挟まってしまう。

そんなこんなで試験が始まる時間となった。

「では、はじめてください」受験生たちが一斉にテスト用紙を裏返す。競い合うように鉛筆の音が響き始めた。

ええいままよと、青年も腹を括って一気にテスト用紙をひっくり返した。

途端、青年は目を丸くした。

出されていた問題は猫の毛が挟まっていたページの問題とほぼ同じだったからだ。

「で、青年は合格して神の猫に感謝したっていう。」なぜか誇らしげに、鼻の穴を膨らませながらチハルは言った。

「本当に〜?」

泰葉は我が家の白い猫を疑いの眼差しで見つめた。相変わらず間抜けな顔で欠伸をしている。どう考えても偶然だろう。

「お礼参りにまたカフェに来たかったけれど、道に迷っちゃってもう来ることは出来なかった。だからそのカフェの場所は誰も知らないっていうのがお決まりのフレーズです」

チハルは興奮しながら答えた。

マメ〜あなた凄いわねぇと若葉はニコニコしながら見守っている。

「でもそれだけじゃ噂にもならないでしょ?まだあるの?」泰葉が笑いながら問いかける。

「たくさんありますよ!片思いの子と同じクラスになったとか、先輩と付き合えるようになったとか、失くし物が見つかったとか、宝くじが当たったとか、テストのヤマが当たったとか、部活でレギュラーになったとか、遅刻したけどバレずに教室には入れて怒られなかったとか」

「なんだか学生らしい悩みねぇ、若いって素敵ね。でも、おかしいわねぇ、そんなにここのお店って学生さん来ないのよね」

それもそうだ。徒歩圏内に学校はあるものの、やはり道が入り組んでいるからなかなか来ない。駅近くにはファーストフード屋が何軒かあるから、そこに皆行くのだろう。

好き好んでこんな古いカフェにくる学生はほんの一握りだ。

「でも絶対ここだと思うんですよね。古いし。猫いるし」

「ふふふ、そうかしらねぇ」

お世辞にも新しく綺麗なお店ではない。アンティークな置物や時計が所狭しと置かれており、ゴチャゴチャと雑多な雰囲気だ。しかし椅子や机も長年の使用でいい味を出している。どれも手入れが行き届いており、埃も気にならないのはこの店の主人達が暇さえあれば、あぁ忙しい忙しいとハタキでパタパタ、フキンで拭き拭きしているからか。

「で、それはそうと、あなたは何を叶えてほしくていらっしゃったのかしら」

若葉がアンティークのティーポットを丁寧に拭きながら尋ねた。

さながらアラジンの魔法のランプのようなやりとりだ。

神様のネコがマメなら、飼主の若葉は神様ということになるな、様になる質問もまた面白いと思い、泰葉は笑いを堪えた。

さっきまで流暢に話をしていたチハルは、最初来た時のように下を向き、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「わ、私の、親友と喧嘩しちゃって」

絞り出すようにそういうと、丸々とした瞳がゆらゆらと輝いて、ポトリポトリと雫が落ちた。