【超短編】隙間BAR 

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いらっしゃいませ。

こんな分かりづらいBARによくいらっしゃいましたね。

ワタクシはBAR隙間のマスター、隙 間太郎と申します。

あなたがここに来たのも縁。

ウィスキーとハイボールの間のような、白ワインと赤ワインの間のような、水割りとお湯割りの間のような隙間をつくオリジナルカクテルをご用意しております。

ワタクシが今までお客様から聞いてきたスキマバナシで、印象に残ったものをご紹介いたしましょう。

〜中学生のE子さんのお話〜

E子さんは放課後、忘れ物をして教室に戻ってきたそうです。

教室には1人。外からは部活動をしている生徒の声や、吹奏楽部の伸びやかな音が響いています。

E子さんは帰宅部だったものですから、のんびりと忘れ物を手に取り、帰ろうとしたそうです。

その時でした。窓の方からバタバタッ、バタバタッと聞き慣れない音がしました。

教室は一階でしたから、ベランダの方を見に行きましたが誰も居ないし人の気配もしません。

おかしいなあ、たしかにこの辺から音が聞こえたんだけどなぁと思ったE子さん。

窓枠のすぐ下にあった暖房器具を覗き込みます。

すると、暖房器具と壁の隙間、窓枠の下にいたのですー

バサッバサバサッ

マスターがおもむろに被っていた帽子を取ると鳩が店内を飛び回った。 

「そう、鳩が」

私の驚いた顔を見て、嬉しそうにまたマスターは話し始めた。

E子さんに見つかった鳩は、何だか気まずそうに、そしてしっかりと挟まってしまっており、人間に見つかったと観念したような様子で大人しくしていました。

E子さんは心根が優しい女の子でしたから、少し怖がりながらも勇気を出しました。

『えいっ!』

意を決して鳩を両手でむんずと捕まえ、窓から放り投げました。

すると鳩は先ほどの大人しい様子から一転、解放されたようにまさに自由の象徴の如く教室から飛び立って行きましたー

E子さんは、今でも鳩を両手で掴んだ時のサイズ感と、感触が忘れられないと語ってくれました」

「そのスキマバナシにインスピレーションを受けまして、オリジナルに作らせていただいたのがこの【ピジョットショット】です」

手際の良い所作からマスターがスッと私にカクテルを差し出してくれた。

爽やかな色のカクテルに、キラキラとした氷が輝き、コップの淵には塩が付けられている。

ひと口飲むと、爽やかな見た目よりもキツいお酒感を感じ、驚いて目を丸くした。

その顔をマスターは嬉しそうに眺めるとこう言った。

「その顔が見たかったんです。おつまみと一緒にどうぞ」

小さい小皿に豆菓子が載せられていた。

マスターは続けて、

「早く食べないとこの子が食べちゃうので気をつけてくださいね」と語った。

隣の席のテーブルを見るとさらに驚いた。

マスターが手品で出した鳩がテーブルに行儀良く座り、私の豆菓子を狙っていたのだった。

私のその顔を見てまたマスターが嬉しそうに笑った。

つづく