第二部 木村摂津守の家族-4

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「咸臨丸物語」

宗像 善樹

第二部 木村摂津守の家族-4

木村芥舟が施した息子浩吉、駿吉への英才教育と二人の近代日本国海軍の歴史に残る任務の完遂は、二人の努力然る事(さること)ながら、木村芥舟を兄と慕い、芥舟への報恩を生涯貫いた福沢諭吉の経済支援によるところが大きかった。
江戸城のお堀を背にした高台の閑静な屋敷町、麹町区土手三番町での福沢諭吉との五年間の交流は、木村芥舟にとって生涯最後の至福のときであったに違いない。

芥舟の妻弥重は八十六歳まで生き、大正七年(1918)二月に大往生を遂げた。
木村芥舟と兄弟の如きつき合いだった福沢諭吉の妻錦は八十歳の天寿を全うし、大正十三年(1924)六月に夫のもとに旅立った。
芥舟の娘清は昭和十八年(1943)まで生き、同じく八十歳の天寿を全うした。
わが国近代海軍に大きな足跡を残した木村浩吉は、海軍少将まで昇り、昭和十五年(1940)に七十八歳の生涯を終えた。
木村浩吉は、日清戦争の際、巡洋艦松島の水雷長として出征し、黄海海戦で大きな戦功を上げたが、そのときの海戦実記を詳細に記録、出版したものが世間の評判を呼び、今も貴重な資料とされている。
日露戦争における日本海海戦の勝利に大きく貢献した木村駿吉は、大正三年(1914)に海軍を辞した。
退職後は日本無線電信電話会社の役員を勤め、晩年は弁理士になり、日本の無線電信技術の進歩、発展に半生を捧げ、昭和十三年(1938)に七十一歳で没した。

 

あとがき
この作品の執筆にあたり、咸臨丸に関する専門的な知識とシーマンシップ教育の真髄についていろいろご教授してくださった元東京商船大学教授・元帆船日本丸船長・医学博士の橋本進先生に深く感謝、御礼申し上げます。さらに、艦船の知識に関するご指導を熱心にしてくださった元海上自衛隊自衛艦隊司令官谷勝治元海将に厚く御礼申しあげます。

 〈参考文献〉
木村摂津守喜毅日記 慶応義塾図書館編       塙書房
木村芥舟著  木村芥舟翁履歴略記
木村浩吉誌 木村芥舟ノ履歴及経歴ノ大要 大正十四年六月記
今泉みね著 名ごりの夢   昭和十五年  みくに社
今泉みね著 名ごりの夢   東洋文庫9  平凡社
金原周五郎著 雲白く・我が祖先を尋ねて  えむ出版企画
鈴木崇英編著 資料・木村摂津守喜毅    赤堤書房
木村紀八郎著 軍艦奉行 木村摂津守伝   鳥影社
木村芥舟とその資料・旧幕臣の記録     横浜開港資料館
福澤諭吉著・富田正文校訂 新訂福翁自伝  岩波書店
福澤諭吉著 学問のすすめ         岩波書店
小泉信三著 福澤諭吉           岩波書店
ふだん着の福澤諭吉          慶応義塾大学出版会
岳真也著 福澤諭吉 青春篇・朱夏篇   作品社
中島岑吉著 幕臣福澤諭吉        TBSブリタニカ
北康利著 福沢諭吉・国を支えて国を頼らず 講談社
石河幹明著 福沢諭吉伝          岩波書店
平山洋著 福沢諭吉の真実         文藝春秋
佐高信著 福沢諭吉と日本人        角川文庫
未来を開く福澤諭吉展(二○○九年)慶応義塾創立一五○年記念
今永正樹編 年表・福澤諭吉        葦書房
文倉平次郎著 幕末軍艦咸臨丸(上・下)     中央公論社
橋本進著  咸臨丸、大海をゆく         海文堂
橋本進著  咸臨丸還る・蒸気方小杉雅之進の軌跡 中央公論社
ドナルド・キーン著 続百代の過客 (上)   朝日新聞社
千早正隆著 咸臨丸航海の真相 文藝春秋昭和三十五年六月号
咸臨丸太平洋を渡る・遣米使節一四○周年   横浜開港資料館
万延元年遣米使節史料集成〈第七巻〉日米修好通商百年記念行事運営会
咸臨丸乗組員名簿      咸臨丸子孫の会ホームページ
大宅壮一全集 第二十五卷 炎は流れるⅡ  蒼洋社版
中濱京著 ジョン万次郎  冨山房インターナショナル
永国淳哉著 ジョン万次郎幕末日本を通訳した男新人物往来社
マーギー・プロイス著(金原瑞人訳)
ジョン万次郎・海を渡ったサムライ魂   集英社
カッテンディーケ著(水田信利訳)
長崎海軍伝習所の日々          平凡社
藤井哲博著  長崎海軍伝習所       中公新書
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