多発する医療過誤事件の背景にあるもの-3

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「富家孝著・SB新書「死に方」格差社会より}

第7章 信頼できる医者の探し方、選び方

多発する医療過誤事件の背景にあるもの-3

私はそのとき仕事で他所にいて、緊急連絡で母校に駆けつけると、息子はまるつきり別人に成り果てていた。全身が硬直して動かず、ただ私の目を見るだけ。いったい、病室でなにがあったのか?
このとき私は、「これは医療ミスだ」と直感し、以後、母校の医者たちと徹底して闘う道を選んだ。これを運命の皮肉と言う人もいる。
しかし、私は医療過誤に遭った多くの方々が泣き寝入りをしてきたことを思い出し、母校といえども告訴することを決めた。それは、親としても医師兼ジャーナリストとしても、当然の道であると信じたからだ。
その後、私はカ~テなどの証拠保全を申請し、息子の「事故」から1年後には刑事告訴に踏み切った。しかし、これが受理されなかったために民事に切り替え、東京地裁、束京高裁と2度の裁判を闘った。そうして約4年、2010年7月15日に出た東京高裁の判決
おおやけ
は「請求棄却」であった。つまり、親として、医師としての私の訴えは、公(おおやけ)には一切認められなかったのである。
だから、私は「ちょっとしたミスをいちいちあげつらわれていたら、医者などやっていられない」と言う医者がいると、いまも怒りを覚える。また、最近は研修医制度も変わり、文科省が医師不足を解消するために医者の数を増やす政策を促進した結果、逆に外科医になる若手が減ったことに危倶を覚えている。
なぜなら、最近の医者志望者は安全志向第一で、「ミスをしたら訴えられる」と、外科を選ばなくなってしまったからだ。