第54話 肥前の鐔

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幕末史研究会
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Eメール:spgh4349@adagio.ocn.ne.jp
プログアドレス:http://blogs.yahoo.co.jp/bakumatsushiken
幕末史研究会は、東京都武蔵野市を中心に1994年から活動を続けている歴史研究グループです。

第264回幕末史研究会
日時2018年6月30日(土)午後2時から4時
会場武蔵野商工会館 4階 吉祥寺駅中央口徒歩5分
講師小美濃清明(幕末史研究家)
テーマ 幕末の刀剣
講義内容 日本刀剣史の中で幕末期の刀はどのような特徴が顕著なのだろうか、他の時期の刀剣と比較して検討する。
実物を展示してわかりやすく解説していく。
代表的な幕末期の刀鍛冶についても解説します。
会費 一般1500円 大学生1000円 中学生以下無料
申し込み 6月28日まで事務所へFaxまたは Eメールで。
Eメール・spqh4349@adagio.ocn.ne.jp
FAX・0422 51 4727

「坂本龍馬八十八話」
5、刀剣

小美濃 清

第54話 肥前の鐔

はるい
姪・春猪(はるい)にあてた手紙に龍馬は次のように書いている。
(この鐸、肥前より送りくれ候ものにて、余程品よろしくと段々申もの御座候。江戸などにてハ古道具やなど欲しがりし申候なり。何卒御養子の腰に止り候よふ、希入れ候〉
慶応二年(六六六)、秋ころと推定される手紙である。春猪の夫となった養子・坂本清二郎の差料に使われるようにと願いながら、春猪に鐸を贈ったのである。
肥前の国で作られた鐸は、代表的なものをあげると、南蛮(なんばん)、若芝(じゃくし)、矢上(やがみ)などがある。
いずれも、土地柄を反映して異国情緒が漂う作風である。
南蛮はその名のとおり、南蛮文化をうけた長崎で造られた鐸であり、写真①のように全体が網目のように透かされている。竜を浮きあがらせるように彫刻されているものが多い。
普通の鐸が鉄(銅、鋼などの合金も使用する場合もある)を彫刻して図柄を浮きあがらせる技法だが、若芝は中国の特殊技法である薬液による腐蝕の工法で、山水風景、竹、雲竜などを浮かびあがらせる作風である。写真②のように彫りが浅い仕上がりの鐸であり、中国風の雰囲
気の図柄である。
矢上は長崎市内の地名で、そこに住んでいた光広という鐸工が初代から三代までいた。
じすかし
作風は群猿図を細密な肉彫りにして、地透にする工法で、俗に「矢上の千匹猿」といわれて
いる。
龍馬が春猪に贈った鐸はこの三流派の鐸のどれかだろうと思う。
江戸の古道具屋が欲しがる程、品質のよいものだと龍馬は書いている。龍馬は子供の頃から坂本家の所有する刀剣や鐸を見る機会があった。また坂本家の裏門がある水通町には鐸を作る
職人も住んでいた。
武具類について詳しい知識を持っていたので、江戸の古道具屋も欲しがる位の品質が上等なものと鑑定しているのである。
春猪は兄・権平の娘なので、龍馬からすれば姪であるが、歳が近いので、妹のような存在である。
その春猪が養子をもらい結婚したので、叔父として、姪と養子がうまく暮らしていけるよう気遣いをみせているのである。そうした気配りから自分もよいと思った肥前の鐸を土佐に送ったのである。
龍馬はこの時、長崎におらず、(たぶん下関であろうか、)その地で「肥前より送りくれ候もの」と書いているので、龍馬はこの鐸をもらったものであろうと思われる。
鐸は季節によって付け替えたり、儀式によっても付け替える。現代の背広につけるネクタイのようなものであり、気分によっても取り替えることもある。いつも同じものではないのである。

ちょっといいネクタイを姪の夫にプレゼントしたといった感じの話なのである。