第56話 京都国立博物館の吉行

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幕末史研究会
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FAX・O422-51-4727/電話・090-6115-8068(小美濃)
Eメール:spgh4349@adagio.ocn.ne.jp
プログアドレス:http://blogs.yahoo.co.jp/bakumatsushiken
幕末史研究会は、東京都武蔵野市を中心に1994年から活動を続けている歴史研究グループです。

第264回幕末史研究会
日時2018年6月30日(土)午後2時から4時
会場武蔵野商工会館 4階 吉祥寺駅中央口徒歩5分
講師小美濃清明(幕末史研究家)
テーマ 幕末の刀剣
講義内容 日本刀剣史の中で幕末期の刀はどのような特徴が顕著なのだろうか、他の時期の刀剣と比較して検討する。
実物を展示してわかりやすく解説していく。
代表的な幕末期の刀鍛冶についても解説します。
会費 一般1500円 大学生1000円 中学生以下無料
申し込み 6月28日まで事務所へFaxまたは Eメールで。
Eメール・spqh4349@adagio.ocn.ne.jp
FAX・0422 51 4727

「坂本龍馬八十八話」
5、刀剣

小美濃 清明

第56話 京都国立博物館の吉行

龍馬は兄権平から家伝の刀剣を拝領している。陸奥守吉行という刀工が作った刃渡り、二尺二寸の刀剣である。
この刀は現在、京都国立博物館にある。
龍馬は脱藩したあと、慶応二年十二月、兄権平に次のような手紙を書いている。
〈国家難にのぞむの際ニハ必ず、家宝の甲★かぶと★を分チ、又ハ宝刀をわかちなど致し候事。
何卒おぼしめしニ相叶候品、何なりとも遣わされそうらえば、死候時もなお御側ニこれ在りと思いこれ在り候。〉
兄権平は弟の気持ちをよく理解して、坂本家の蔵刀の中から一振を選んで、龍馬に贈っている。それが陸奥守吉行である。
龍馬はこの刀が気に入って、京都に行く時は常にこの吉行を腰に差していたようである。
友人の毛利恭助が京都でこの吉行をみて、しきりに欲しがったが、私は兄からのたまわりものだから、譲るわけにいかないと言って断ったと、手紙に書いている。
龍馬は名刀であることを確認するために、京都の刀剣家に見てもらうために、歩き回っている。それも一人でなく、何人もの刀剣家を訪ねているのである。そして、
刀剣家が皆、粟田口忠綱ぐらいの目利(めきき)をした
と書いている。
目利きとは鑑定である。粟田口忠綱を大坂の名工で、一竿子忠綱ともいう刀鍛冶である。刃文が似ているのである。龍馬はそれが嬉しくて、京都の刀剣家の間にみせびらかすように歩いているのである。
慶応三年六月二十四日、兄権平にあてた手紙に書いているので、その日のことか、その少し前のことであろう。
この頃、龍馬は大政奉還にむけて下工作をやっている時期である。岩倉具視を訪ねたのも六月二十五日で、この手紙を書いた翌日である。
刀剣を鑑賞する趣味とはどんな趣味なのだろうか。
刀はその姿、合体の形を見る。反りの強い刀もあれば、直刀もある。
次に刀には刃文★はもん★がある。その刃文の形を鑑賞する。波のように動きのある形。山の峰のような形、小川の流れのような形。これを絵画を見るように鑑賞する。
刀には肌というものがある。柾目肌、板目肌、木目肌、梨地肌などがあり、それを鑑賞する。
刀は鉄で作られている。鋼の美しさを鑑賞する。
次に刀の刃文には沸え、においというものがあり、それを鑑賞する。
静かに刀を鞘から抜いて、その刀の美しい姿、刃文、肌、鋼の輝きを鑑賞していると、一刻、時を忘れるのである。そこが、刀剣趣味の醍醐味を味わっていたのであろう。美しい宝石を見ているのと同じなのである。日本刀は鉄のダイアモンドとも言う。
江戸時代、武家の表道具といわれた日本刀は武士階級の教養の一つであり、龍馬はこうした美術品鑑賞でも一流だったと思われる。