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幕末史研究会
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「坂本龍馬八十八話」

小美濃 清明

第52話 菩提心

坂本龍馬が「奈良★ママ★崎将作に逢し夢見て」と題した和歌を詠んでいる。

面影の見えつる君が言の葉を
かくしに祭る今日の尊さ

龍馬はお龍の父・楢崎将作には一度も会っていない。お龍と龍馬がめぐり逢った時、将作はすでに死んでいた。その将作に龍馬は夢の中で会ったのである。
お龍から将作について、いろいろと聞いていたのであろう。青蓮院宮の侍医だった将作は、勤王医として頼三樹三郎や池内大学らと親しく、安政大獄で捕縛されて、入牢中に獄死している。
夢の中で将作は龍馬に語りかけたのである。その言葉を龍馬は大切に思って、将軍の招魂祭をしたおりに詠んだ和歌である。
将作は龍馬に何を語ったのだろうか。それは「お龍を幸せにしてやって欲しい」という意味の言葉だったのではないだろうか。龍馬は生真面目な性格であり、その願いに応えるように将作への菩提心から招魂祭を行い、和歌を詠んでいるのである。
招魂祭は使者のたましいを、あの世から招いて祭祀を行うことであり、僧侶が読経する場合や神官が祝詞★のりと★を唱える場合もある。
龍馬とお龍は下関か長崎で招魂祭を行っていたのである。
もう一首、龍馬の菩提心がみえてくる和歌がある。「父母の霊を祭りて」と題した和歌である。
かぞいろの魂やきませと古里の
雲井の空を仰ぐ今日哉
「かぞいろ」とは「かぞいろは」という古語の略であり、両親、父母という意味の名詞である。
父母の霊を祭って、父母の魂が下りて来るようにと古里★ふるさと★(高知)の空を仰ぎ見ている今日ですという意味である。
龍馬が高知に在る時、坂本家で招魂祭を行ったのであろう。その時に詠んだのである。
おそらく、兄権平を和歌を詠んだと思われるが、それは残っていない。
坂本家は龍馬の祖母・久が和歌に堪能であったので、父・八平、兄・権平も和歌を詠んでいる。龍馬も祖母の血が流れており、和歌を多く詠んでいる。
龍馬の菩提心は坂本家に生まれ育っていくうちに、自然に身についたものであり、心の底に常に存在していたものと思われる。
龍馬の母・幸は弘化三年(一八四六)六月十日、四十九歳で死去しており、龍馬は十二歳であった。
父・八平は安政二年(一八五五)十二月四日、五十九歳で死去している。龍馬は二十一歳であった。龍馬が第一日目の江戸修行を終えて帰国した翌年のことである。
父・八平の死去した安政二年十二月以降のある年、龍馬が高知に在る時期、坂本家で招魂祭が行われたのである。
こうした習慣が坂本家にはあったので、お龍の父・将作を夢に見た龍馬はすぐに、将作の招魂祭を行ったのである。
お龍も自分の父・将作の招魂祭をやろうという龍馬の言葉を嬉しく思ったに違いない。