月別アーカイブ: 2016年4月

水中花 三宅禮子(やぶれ傘同人)

水中花

水中花
        三宅 禮子

 江戸も見し欅(けやき)大樹の蔦青し

 梅雨空に鴉(からす)啼くとき羽を揚ぐ
 
 のそのそと蟇(がま)の横切る道に待つ

 盥(たらい)てふ言葉なつかし日の盛り

 夕凪の白き帆かたまりて

 水中花水をくわえて離さざる


月見草 松本正生(やぶれ傘同人)

月見草

 月見草
       松本 正生

 青嵐山路に海の見え隠れ

 夏暖簾町屋の朝の水の音

 路地が好き風鈴の音にいざなわれ

 花茗荷植えし覚えのなきところ

 砂の家を波さらいゆく夜の秋

 流れゆくテールランプや秋暑し

 膝つけば波より髙し月見草


十三夜 奥田温子(やぶれ傘同人)

十三夜

十三夜
         奥田 温子

 山脈を覆う雲なし後の月

 ススキ越しの富士を間近に野天の湯

 小楢の実ひとつぶ拾う落葉掃き

 あの窓に映りし月も十三夜

 キジ鳩の落葉散らして飛びにけり

 デンバーの果てなき荒れ野枯れすすき


三輪車 濱野新(やぶれ傘同人)

三輪車

三輪車
                濱野 新

 湯上りの背にタオルかけ冷や奴

 医者に行く元気残して暑に耐える

 日盛りや羽休めたる大風車

 炎天に乗り捨てられし三輪車

 坂道の天辺にある夏の雲

 盆休み竹馬の友と長電話

 父の背をまぶたに泛べ墓洗う


釣船草 大野美登里(やぶれ傘同人)

釣船草

釣船草
       大野美登里

 おくんちの囃子詞を口ずさむ

 古酒を酌む深夜放送聞きながら

 海ぞひを走る列車や夜の稲架

 食卓に一輪挿しと煮染芋

 民宿の軒にランプや藤袴

 山あひの村に灯のつく新走り

 栗煮るや古びし杉の落し蓋

 芋嵐水運び行く猫車

 引越しの茶碗をつつむ夜長かな

 ひとところ濁る流れや釣船草