夢の世 安藤久美子(やぶれ傘同人)

酉の市 

夢の世
    安藤久美子

 溜息をひとつ秋日の限りなく

 もう弾かぬピアノの埃菊の昼

 お酉さま小判に鯛におとめたち

 よく晴れて北鎌倉の落葉どき

 葉籠りの寒椿ある山路かな

 羽子板市押絵のことをみなが言う

 木枯らしの夜は酒強き人の輪に

 甘味噌を載せ小太りがいい大根

 夢の世の柚子湯の中に瞑りて

 水仙の揺るるしぐさに匂ひたつ