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赤い橋


赤い橋

 令和2年6月2日夜、築地サロンから遠望したレインボーブリッジが不気味なほど真っ赤に染まりました。
 東京都内の新型コロナウイルス感染者が34人と激増したことで、小池都知事が予告した東京アラートが発令され、レインボーブリッジが血の色にライトアップされたのです。もちろん、ウイルスをストップさせるための赤ですが、夜の繁華街の再開で夜遊びに繰り出した人々が再び自粛しない限り歯止めは効きません。
 この赤い色を遠くから眺めただけで不吉な予感がして、このウイルスの感染予防には一層の警戒が必要であると再認識させられました。これだけでも、この赤いライトアップはそれなりの効果が有ったのは間違いありません。
 この厄介なウイルスとの戦いは、短期決戦はもう無理です。36計、逃げるが勝ちと思って家に閉じ籠っていても、ストレスが溜まるばかりですから、たまには気晴らしに友人との飲み会やランチ会ぐらいは、と思うのが人情です。
 私は、自宅作業で自粛の期間、仕事の合間に、撮り溜めた長編・中国ドラマの録画鑑賞三昧での退屈しのぎでした。
 三国志、水滸伝、項羽と劉邦、大秦帝国・強国への道、孫子の兵法、などですが、なかでも、中国軍隊がエキストラで出演する壮大なスケールの三国志は圧巻で、何度見ても飽きません。日本の武士道など吹っ飛ぶような、欺瞞に満ちた騙し合いを描く中国ドラマこそ人間の本質を赤裸々に描いていて凄みがあり虚々実々で実に面白く不気味で、現代の中国人の中華思想に通じるのも良く分かります。
 これらのドラマに流れる「勝てば官軍」の思想こそ、「孫子の兵法」の骨子にある「どんな手を使っても戦いは勝たねばならぬ」のであって、そこには敗者の美学など微塵もありません。敗軍の将が何を語っても、それは「負け犬の遠吠え」でしかないのです。全てが結果主義、成功者や富める者が称えられ、敗者や貧しき者は辱められ抹殺されるのです。
 日本には、貧しくも清く生きた人への尊敬と賛美があり、例え戦いに敗れても事業で失敗しても、その生き様が立派であれば、人物として認められ尊敬される「敗者の美学」という救済措置があり、これは「武士の情」として日本の古きよき伝統でした。これが今失われつつあるのです。
 いま、新型コロナ感染者の少ない地方などでは、たまたまウイルス感染者が出ると家族を含めて周囲から白い目で見られて村八分とか、それが医療従事者で被害者だったりするのですから悲しいです。
 レインボーブリッジを赤く染めた原因になる東京都のウイルス感染者34人の内訳には、病院の医療従事者と、新宿歌舞伎町飲食街の従事者と顧客などが目立ちます。
 自粛に逆らって夜の歓楽街で飲み歩いて感染した遊蕩客と、それを治すべく力を尽くしてその遊醉客から感染した医療従事者が同列に扱われ、その家族まで周囲から白い目で見られるなど有ってはならないことです。
 いまや、どなたでも明日は我が身、いつどこで感染するかは分かりませんが、その感染先にも良し悪しがあることだけは自覚すべきです。と、私もおのれを省みて手帳を眺め、2週間前からの行動や出会った人を思い出し、3密とは無縁の自分を哀れみ、少し寂しく思ったところです。

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