武士道、地に堕ちたり


 

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300520

武士道、地に堕ちたり

花見 正樹

スポーツに関心のない人の目にはどう映っているのでしょうか?
日本大のアメフト部の内田正人監督が、悪質タックル問題でこの5月19日に、同じ日大アメフト部の加藤部長と共に、日大選手が怪我をさせた関西学院大の選手本人や家族などに直接会って謝罪しました。
内田正人監督(62)は、一連の問題の責任はすべて自分にある、と述べた上で、日大アメフト部の監督を辞任することを表明したのです。これで、社会問題にまでなった一連の問題は解決に向かいそうな気がします。
内田監督も、ルールを無視した悪質で危険な違反行為を選手に命じた責任はとるというのですから、ここから先はスポーツ精神に基づいて善処しかつ必要な賠償や債務を履行することに期待するばかりです。

問題となったのは、5月6日に行われた関西(かんせい)大と日大のアメフト定期戦での反則行為です。
スポーツマンシップとしては絶対にやってはいけないこと、これはスポーツ選手なら誰でも分かっています。
その反面、監督やコーチに逆らうことはクビを宣告され、選手生命を失う危険があることも選手は知っています。
しかし、監督の立場は違って、何が何でも勝たねばならないのです。
正々堂々実力を出し切って戦い、それで負けたなら悔いはない、という監督もいます。
普通の監督は、正々堂々戦って負けたら、実力通りだとしても悔しくて酒でも飲まないと眠れません。
普通じゃない監督は、どんな手を使っても勝ちたい一心ですからスポーツマン精神の欠片すら持ち合わせません。
事実、日大の内田監督はこの試合の直後、危険な反則を犯した選手をねぎらってか次のような発言をしています。
「選手も必死だ。あれぐらいやらないと(関学には)勝てない。やらせている私の責任」
あとで発言を撤回しましたが、一度口にした言葉ですから慌てて呑み込んでも本音に聞こえてしまいます。
さらに複数のメディアの報道によると、「監督の指示で行った」、「最初のプレーでQB(コーターバック)を壊してこいと言われた」、「反則するなら試合に出してやると言われた」などの選手達の証言まであるのです。

では、なぜこうなったのか?
私は、この一項をこのHP内歴史館内の「武士道コーナー」に載せるつもりでしたが、ここから脱線しました。
これは氷山の一角で、勝つためには手段を選ばない卑劣なスポーツ指導者がまだまだいるのを確信するからです。
それにしても、テレビで見た悪質な反則行為を他のスポーツに当てはめてみますとどうなるのでしょうか?
ボクシングでの試合中、休憩のゴンングが鳴れば選手は構えていたグラブを下ろして自コーナーに戻ろとします。その隙だらけの横顔を狙って、途中判定で敗けている選手が思いっきり相手のこめかみに鋭いパンチを打ち込んだら、勝っていた選手は間違いなく倒れて失神します。悪ければ頭を打って脳震盪、命に拘わる反則行為です。試合は当然、反則選手の負けで数か月の出場停止にはなりますが、相手の選手生命は終わるかも知れません。これでライバルが一人消えます。これが、セコンドの指示だったら? こんな例はいくらでも考えられます。
アメフトは、あくまでもフットボールの一種で、楕円形のボールを用いるゲームですからラグビーと似ていますし、ボールが丸ければサッカーとも似ています。
ただ、大きく違うのは鍛え上げた頑丈で重い体と体が全力で激突しますから頑丈な防具を身につけてケガを防がねばならない点と、野球のように攻撃側と守備側と交互に巡る点で、戦いが10秒内外単位の中断、進行が繰り替えされて試合は進みます。
アメリカでは、アメフトが国技扱いで40%、バスケット15%と、これだけでスポーツ人気の55%強を占めています。人気絶頂と思われる野球は9%、ヨーロッパで全盛のサッカーはアメリカでは殆ど好まれません。
日本では徐々に人気は右肩上がりだっただけに、今回の事件はアメフトファンには残念で気の毒な事件でした。
アメフトのルールでは、QBがパスを投げた後の約2秒後は無防備な状態になりますから、そこにタックルするのは禁じています。そのルールを無視した確信犯的な今回のプレーはルール違反どころか悪質な傷害事件とも考えられるのです。しかも、まだ試合開始後わずか数分の出来事で、監督の指示であったことは明らかです。

日大はマンモス化した大学で、その卒業生はどこにでもいます。
私の末娘も日大芸術学部で絵描きを目指した経緯もあり、私も娘の月謝を払った親の立場からすれば、多少の縁はあるわけで今回の件も気になります。
日大のアメフトの監督には、かって自由奔放な発言で一世を風靡した故・篠竹幹夫氏というカリスマ指導者がいました。その後を継いだのが今回問題になっている内田監督で2003年のことでした。
当時の関東リーグは法政大学が優勝を続けていて、日大のすけいる余地はありませんでしたが、内田体制になって4年後の2007年から2014年までに関東リーグを4回制して甲子園ボウルに出場しますが、そのいずれも関学に敗れています。その責任をとって内田監督は勇退しますが、その後のチームの不振で2017年に復職し、復帰後1年目で悲願の宿敵・関学撃破を成し遂げて日本一の座についたばかり、もう関学には負けるわけにはいいかないのです。しかも、内田監督はいまや日大の常務理事で日大では田中英壽理事長に次ぐ実質的なナンバー2、飛ぶ鳥を落とす勢いで、誰がなんといおうとその日本最大級学校法人の椅子にしがみついて離れないはずです。
この内田監督の立場での関学との定期戦を考えたとき、監督としての心情が理解できるような気がします。
だが、その虎の威を借りたような出世とは裏腹に内田監督には「気が小さい」との評価がついてまわります。
だからこそ、どんな汚い手を使っても絶対に勝ちたかった」のではないでしょうか?
なんだか、亭主の座にしがみつき、会社のイスにしがみつく最近の草食系男性像を見ているようで、胸が押しつぶれそうな悲しみに襲われます。
こうして内田監督の心情は理解できましたが、この悪意ある反則行為は断じて許せません。
なぜ、堂々と胸を張って生きられないのか?
武士道地に堕ちたり・・・ヤケ酒(飲めないくせに)でも飲みたい気分です・・・