雪景色に想う


 
 今日は2月8日、雪の土曜日です。
 我が家の狭い庭の梅の木も白く太い枝になり、
いつも遊びに来るメジロも姿をみせません。
 愛車は雪に包まれて、車の形をした雪だるま
になっています。
 日本の上空を急速に発達した低気圧が北東に
進んで西も東も雪が降り続いているそうです。
 気象庁では、明日の朝までに都心で20セン
チの雪が降ると予想しています。
 雪国の人たちの雪かきなどの苦労を知らない
都会人は大慌てで、なす術もありません。
 雪国の人は笑うかも知れませんが、東京では
20センチも雪が積もると大騒ぎです。
 飛行機は飛ばず、電車はあちこちで運行停止、
高速道路もあちこちで分断されています。
 大学入試も軒並み時間をずらしましたし、スカ
イツリーも営業中止です。投開票日が翌日に迫っ
た東京都知事選の候補者も大変だったようです。
 なにしろ13年ぶりの大雪警報で気象庁は警戒
を呼び掛けていますが、何もできません。
 転んでケガをする人も続出しますし、車はあち
こちでスリップ事故を起こしています。
 こんな日は家にいるのいが一番なのですが、因
果な性格で、あちこちの雪景色を見たい誘惑にも
駆られます。そこで遅い午後、着膨れ状態に長靴
を履いて町内を散歩して来ました。
 以前は元気なシバ犬を飼っていましたから、雪で
も雨でもあちこちを走り回っていました。
 雪の中を歩いているうちに雪の感触と思い出が
次々に甦ってきます。
 つい10年前までは、渓流の解禁日には栃木の
鹿沼で鮎宿を開いていた友人と雪の夜中に山の中
に釣りに行ったものです。
 一度などは雪に視界を閉ざされて危うく土手道
でスリップして車ごと川に転落しそうになったこ
ともあります。
 深夜に川辺に行き、河原でたき火をして夜明け
の解禁を待つのですが、雪の夜はあちこちから人
が集まって車内で酒盛りです。
 ところが釣り始めてすぐイワナを掛けて手網で
獲り込もうとして足が滑って深みに落ちたことが
あります。
 浅瀬に泳ぎ、岸に上がってからが寒くて死にそ
うな思いをしたことがあります。同行の友人は漁
協の役員をいましたから顔がききます。
 雪の中を駆け巡って、釣人から着ているものを
1枚づつ脱がして巻き上げてくるのです。
 こちらはほぼ丸裸で車中で暖をとって待つので
すか、ご存じの通り車のヒーターはすぐには暖か
くなりません。しかも温風になるまでは寒風なの
ですから凍えそうです。残っていた一升瓶の酒を
ガブ飲みして暖をとるしか手がありません。
 友人が着るものを集めて来た時は完全に出来上
がっていたようです。さすがに下着はありません
でしたがチグハグながら何となく上下とも揃って
さまになりました。こして着替えた直後からまた
酔ったまま釣りを始めたのですが、調子よく何尾
も釣ったのが記憶に残っています。
 その友人も三年前に逝き、雪の中の釣りも幕を
閉じました。
 夜になって風が強くなり雨戸を鳴らしています。
 窓から外を見ると、粉雪が吹雪いていて家々も
道路も白一色の夜景色でした。