長く辛く落ち着かない日


 お元気ですか?
 5月31日は禁煙デー、6月1日は鮎の解禁日です。
 殆どの人には関係のないことですが・・・
 ただ、この6月1日は私にとって長く辛く落ち着かない一日なのです。
 5月31日の深夜、寝不足の頭痛を堪えて週末の締切原稿で徹夜です。
 日テレ系地方局数社が私の占い原稿を元に視聴者に毎日の占いを提供しています。
 日曜の夜までに発送すればいいのですが、今年は例年と違って6月1日が日曜日になってしまいました。
 この日だけは特別なのは私をよく知る人には理解して頂いていることです。
 私は以前、全国の鮎河川を対象に小説を書いて「つり人」という月刊誌に連載していました。
「魔の四万十川」「利根川心中」「狩野川慕情」「鬼棲む球磨川」「埋蔵金秘話」で那珂川&大谷川などです。
 その他、エッセイではありとあらゆる河川を舞台に鮎と人間の交流を書き続けてきました。
 その結果が「巨鮎(おおあゆ)に憑かれた男たち」という小説でした。
 その後遺症で、いまだに各地の漁協から鮎の解禁日になると招待状が届きます。
 時間があれば全国どこでも飛び歩くのですが、身一つではそう自由は利きません。
 それでも今年は解禁日が日曜日ですから、一か所ぐらいは顔を出すつもりで急ぎ仕事です。
 わが家からですと高速で2時間もあれば栃木県の那珂川、北部漁協に行けます。
 ただし、解禁日の若鮎を釣るような繊細な仕掛けは用意しませんから竿は出しません。
 漁協役員と挨拶を交わした後で川に向かいます。
 地元の釣優が友がどの場所に入るかは例年ほぼ決まっています。
 あちこちで知人を見つけては釣果を冷やかし河原で茶飲み話です。
 以前は前夜祭に参加して、夜明けと同時に竿を出していたものです。
 それなのに、この変わりようは自分でも呆れるほどです。
 と、淡々と尤もらしく説明しましたが、これには少しばかり事情があります。
 私のホームグラウンドは、栃木県鹿沼市の農村から日光連山の山裾に近い大芦川水系です。
 そこは高知県四万十川支流の大淀川と並び称されるほどの日本有数の清流です。
 水がきれいなら水底の岩に良質の苔が付着し、それを食む美味しい鮎が育ちます。
 ただ惜しいことに川が小さいために、盛期の大鮎に育つ前に殆ど鵜と釣り師に獲られてしまうのです。
 それと先年、豪農でその川で鮎のオトリ屋を営んでいた私と同年の釣友が逝き、足場を失った感じでもありました。
 さらに大きなダメージを受けています。
 栃木県喜連川(現さくら市)出身の親しい釣友が二度目の軽い脳溢血でリハビリ中なのです。
 6月中旬まで頑張ってリハビリをし、7月になったら那珂川あたりに拉致します。
 これは、たとえ車イスでも「実行する」と奥方にも宣言して許可を得ています。
 数年前の発作後は伊豆の狩野川に連行しました。
 鮎の溜まりそうな瀬の水際ぎりぎりの岩に腰をかけ、そこから竿を出します。
 手先は器用に動かせませんが、好きなことですから何とか自分で頑張ります。
 掛かると呂律の回らない口で歓喜の声を上げ、なんと深場に立ちこんだ私より数多く掛けました。
 その日を境に体調が一気に回復し、その良く年は殆ど健康を取り戻していたのです。
 その友人もまた、この時の感激が忘れられず、この夏の鮎が待ち遠しくて溜まらないのです。
 その友人のためにもその日までは鮎竿を封印して待つつもりです。
 その友人との約束を果たしたら、九州の大鮎との出会いが待っています。
 さあ、待ちに待った夏だぞ! 
 その前に早く何とか原稿を・・・もう日が高くなって、いま、焦りに焦っています。