9、祭りだらけ

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9、祭りだらけ

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とりあえず、グンゼの取材は終わった。
ここも集客能力はまだまだ十分に見込めることが分かった。
夜の打ち合わせの「あず木」の件で、と商工会議所の専用電話に連絡すると加納美紀秘書課長が出た。
「丁度よかったです。こちらから電話するように言われました。いま、どちらですか?」
「グンゼを終って、これから綾部市資料館に行くところだけど」
「その手前並びに、中丹文化会館や天文館パオ、中央公民館などがあります。ついでですから寄ってみてください」
「分かった。時間があったら寄ってくる。それより空腹で倒れそうなんだ」
「グンゼでご馳走にならなかったのですか?」
「グンゼで?」
「お昼時なら、ウナ重ぐらいは出るそうですが経費節約ですね。担当者はどなたでした?」
「勝川さんです」
「それじゃ無理です。あの方は社員ではありません。ただの観光ボランティアで菓子屋の店主です」
「でも、部長代理って名刺を・・・」
「係長代理よりは格好がいいからってグンゼが作ってくれたんです。大橋さんと同じパターンです」
「西山部長も騙されたんですかね?」
「勝川さんは西山部長の飲み友達ですよ。グンゼに斡旋したのも西山部長です」
「とにかく、今、空腹なんだけど?」
「こんど、わたしが住み込みで弁当を作ってあげましょうか?」
「本当ですか!」
「ウソです。京都ではます遠慮をするのが礼儀で、図に乗るとバカにされますよ」
「じゃあ、もう一度・・・」
「こんど、わたしが住み込みで弁当を作ってあげましょうか?」
「折角ですが遠慮します」
「残念。ではやめます」
「えっ? 本音はどっち?」
「コンビニ弁当をお勧めします」
「今も、コンビニ弁当が間に合わせろ、ってこと?」
「グンゼからUターンすると走行方向右側にローソン、その先の西町交差点を越えた左にカフェ・プントというパスタの店があります」
「パスタじゃおやつだな」
「でも、綾部になじむには一度は行くお店ですし、若い女性客に人気があって、いつも満員・・・」
「行きます、すぐ行かなきゃ」
「種類が多く、ご飯ものもグラタンがありますし、パンが美味しくて、つい食べ過ぎて私なんか・・・いや、なんでもないです」
「ところで用件は?」
「それと、これは専務理事からの伝言です」
「まさか、仕事が増えたんじゃないだろうね?」
「仕事じゃありません。少量ですがお酒も飲めます。早朝のお祭りに行って頂きます」
「お祭り? どこの?」
「聞いてないですか?」
「産業まつりとB級グルメまつりは聞いたけど?」
「それは午前十時から午後三時までです。その前の時間にお願いします」
「午前十時に帰れるお祭りなんてあるのかね?」
「金毘羅(こんぴら)まつりです」
「金比羅? 朝ですか?」
「明日の朝六時までに、市内武吉町浦入の浦入(うらにゅう)源六さんの家に行ってください」
「私のマンションから歩ける距離かね?」
「今度、借りた大橋さんのマンションの住所は?」
「たしか本町三丁目の富士園芸のところ、途中にみ乃里寿司って店があったな」
「充分歩けます。上り坂で二十キロ弱ですから六時間ぐらい。でも十時には戻れませんね」
「冗談じゃない。車だと?」
「四十分ぐらいです。カーナビに武吉町浦入十四と入れてください。道を聞きたくても犬もいませんから」
「犬には道を聞かないよ。そこで誰に会えばいいんです?」
「そこに役所の西山隆夫部長の叔父さんで西山義信さんがいます」
「叔父さん?」
「ご存じで?」
「西山部長が、千葉県の我孫子ってところに叔父さんがいると言ってたからね」
「では、その叔父さんと一緒にお祭りに行ってください」
「どこへ?」
「行けば分かります。明日はその後、産業まつりとB級グルメまつり、いいですね?」
「ちょっと待って!」
電話が切れた。同じ課長同士だからといって気遣いがなさ過ぎる。
それにしても入社三日で、バラまつり、金比羅まつり、産業まつり、グルメまつり、綾部市って何なんだ? この勢いだと三六五日、祭り漬けかも知れない。小太郎は、ハッピにハチマキで北千住の町内会で子供神輿を担いだ小学生時代を思い出した。こうなれば、神輿でも駕籠でも担いでやる。仕事着にハッピも悪くない。