3、犯罪防止対策

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 3、犯罪防止対策

(この項は警察庁犯罪防止キャンペーンに協力です)

荒巻刑事が話題を変えた。
「さて、京都府警管内で綾部市は極端に犯罪の少ない街で知られているのは承知ですが・・・」
西山部長と中上専務理事が顔を見合わせた。そんな話題には触れたことがないからだ。
「しかし、その油断から今後は外部からコソ泥や大口詐欺の被害者が激増する恐れがあるのです」
中上専務理事が頷いて西川部長を見た。
「たしかに最近は、上林地区など山間部でさえ長期外出には家にカギを掛けるようになったらしい。そうだな?」
「その通りです。昔はどの家もカギなどなかったからね」
荒巻刑事が納得したように続けた。
「これは全国的な傾向で、どこの国とは言わんが他国民を受け入れてからモラルが崩れ、犯罪が激増したんだ」
中上専務理事が同調する。
「綾部市内でも自転車泥棒やコソ泥が増えてますからな。例えば傘なども・・・」
そこでまた小太郎を見るから、ここは詫びるしかない。
「済みません。すぐ返しに行ってきます」
荒巻刑事は小太郎のことなど眼中にない。
「そこで、千住署の加賀刑事に同行願ったのです」
加賀刑事がショルダー型布カバンからクリヤファイルを取り出し、数枚の紙を中上専務に手渡した。
「秘書の方にコピーを5部づつお願いしてください。機密文書ではありませんので余分にコピーされても結構です」
中上専務が書類に目を通し、「ほう!」と頷いてから机上のブザーで加納美紀秘書部長を呼び出して指示を出した。
「コピーついでにコーヒーもな」
長谷川刑事が補佐する。
「先に綾部署に寄って新川康博署長とは打合せをした。川崎市長とはまだだ」
二人の秘書がコーヒーとコピーを運び、それぞれに配られると加賀刑事が促した。
「まず、一枚目を見てください」
そこには、イラストがあり、大小の文字が●印付きで列記されている。
●空き巣,泥棒、侵入被害防止!
●日頃の防犯意識が被害を防ぎます!
●侵入強盗事件の殆どが無施錠とガラス破りです。
●ドアや窓にはツーロック!
●ちょっとした外出でもカギをかけて!
●ご近所どうし声を掛け合いましょう。
「こんなの当然のことばかりで、新味はありませんな?」
中上専務理事を無視して加賀刑事が告げた。
「つぎに二枚目を見てください」
二枚目の用紙には「振り込め詐欺チェック表」と表題がある。
「今まで、詐欺犯グループは、こんな言葉を使って、被害者に「ハイ」と言わせています」
●電話番号が変わった・・・ハイ、いいえ。
●すぐにお金が必要・・・ハイ、いいえ。
●お金を返すからATMに行け・・・ハイ、いいえ。
●カードを預かる・・・ハイ、いいえ。
●代わりの者が取りに行く・・・ハイ、いいえ。
上記五項目の一つでもハイに該当する電話だったら、振り込め詐欺を疑いましょう。
これを見た小太郎がコーヒーを旨そうに飲んでうそぶいた。
「こうなれば、ない者の強みで貧しいほど安全ですな」
加賀刑事が憐れむような目で小太郎を見た。
「さあ、それはどうですか? 三枚目を見てください。今度は新兵器です」
三枚目には、「高齢者の味方・秘密兵器無料貸し出し中!」の文字が躍っていた。
●「振り込め詐欺見張隊」設置世帯募集中。
●振り込め詐欺防止の秘密兵器です。
・・・教えてピーポ君!・・・
Q、振り込め詐欺見張隊」って何?
A、ご家庭の電話に設置し、電話をかけて来た相手に警告を流し、会話を自動録音するための機械です。
(注)設置費用は無料ですが、月に40円程度の電話料金が掛かります。
Q、具体的にはどんな機械なの?
A、三つの大きな特徴があります。
1、電話の呼び出し音が流れる前に「これから会話を録音します」と警告メッセージを流すので、詐欺犯人は声が残ることを嫌い、電話を切ることが期待できます。
2、もし、詐欺犯人が電話をかければ、その声が高音質で録音されます。
3、録音した声は、警察官の立ち合いがなければ再生することが出来ません。
●設置は簡単、警察官が直接設置するから安心。機械の大きさは葉書と同じサイズで場所もとらない。
「へえ・・・」
今度は中上専務理事が感心したような声を出した。
「こいつはいい。早速わが家に設置して頂けるかな?」
長谷川刑事が冷ややかな口調で言った。
「綾部市第一号の設置ですから、中上家がいかに莫大な財産の保護に力を入れるかがPR出来ますな」
「財産なんか知れたものだ。こんなのは秘密で設置するものだろ?」
西山部長がけしかける。
「何でも一番だから価値があるんです。二台目からじゃ噂にもなりませんよ」
「それもそうだな。よし、綾部市のためにひと肌脱ぐか!」
これで、名誉ある”振り込め詐欺見張隊”機器の綾部市内設置第一号は中上専務理事の自宅に決まった。